シリーズ『くすりになったコーヒー』


『ラッパのマークの正露丸』といえば、お腹がくだったときの妙薬で、日本人ならいつか何処かで飲んだことのある懐かしい味と香りの薬です(添付文書はこちら)。


 元祖メーカーの大幸薬品株式会社によれば、昔からの言い伝え、「クレオソートの殺菌作用で食中毒の下痢に効く」のは間違いだそうです。大幸薬品が突き止めた正しいメカニズムとは?


☆☆☆メチル化されたポリフェノールが、大腸の副交感神経を鎮める・・・のだそうです(詳しくはこちら)。


 とにかく筆者もクレオソートのお世話になって育ちました。夏バテ、食当たり、水の飲み過ぎ、それらに引き続くひどい腹痛と下痢・・・誰もが記憶に残るこんな症状に正露丸はよく効いたし、その匂いは今でも決して忘れません。


 もう一つ見逃せない効能は、夏休みのキャンプ、知らない国への海外旅行、そんなときは予防のために必ず飲む。そうすれば不慮の腹痛にならずにすむのです。勿論、知らない土地でトイレを探す惨めな目にも会いません。


 正露丸の成分は木材を蒸し焼きにして、煙のなかの独特の香りを集めてできる黄色い液体・・・「木クレオソート」と呼ばれます(詳しくは → こちら)。このままでは飲みにくいので、漢方薬の粉と混ぜて、やや湿った丸薬にしてあります。最近は臭くない糖衣錠もありますが、何と言っても丸薬が一番。


 もうおわかりだと思いますが、焙煎したコーヒー豆は蒸し焼き状態で、木クレオソートと同じメチル化ポリフェノールが含まれています(下図)。でも木クレオソートの匂いがしないのは、良い匂いが強いことと、量が少ないからなのです。その代りコーヒーには匂わないメチル化ポリフェノール「フェルラ酸」がたくさん入っています。ただしその効き目は正露丸とは違います。


●正露丸のメチル化ポリフェノールは、興奮した副交感神経を鎮め、腸の蠕動運動を抑えて下痢を止める。


●コーヒーのメチル化ポリフェノールは、ストレスで弱くなった副交感神経を刺激して、血液の全身循環を改善し、気分を和らげる。


●どちらの作用も自律神経の崩れたバランスを改善するという点で共通している(詳しくは → 第11話)。


☆☆☆それでは、腸の蠕動運動を覗いて見ましょう(→こちら)。


 人は疲れ過ぎると食欲がなくなり、胃腸の調子が悪くなります。特に夏バテや食当たりは下痢になりがち・・・そんなとき正露丸がよく効きます。こういう下痢は交感神経が疲れ切った自律神経失調だからです。


 化学に強い人も弱い人も下の図を見て下さい。黒い部分はバニラの香りの「バニロイド」と呼ばれる共通部分。赤い部分の僅かな違いが、コーヒーと正露丸の逆の効果をもたらします。ストレスだらけの世の中で、


●毎日飲んでやる気にさせてくれるのがコーヒー


●消耗し過ぎた消化器を癒してくれるのが正露丸・・・ただし症状が治まったら飲むのを止めましょう。


 今日はここまでで終わりですが、このお話しはまだまだ奥が深いのです。


(第24話 完)


栄養成分研究家 岡希太郎による
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