シリーズ『くすりになったコーヒー』
「ポリフェノール」は化学用語です。誰もが「身体に良い栄養素」と思っているでしょうが、実はそうでもないのです。くすりになった善玉もあるし、悪玉は毒になります。勿論、コーヒーには善玉「ポリフェノール」がいっぱいです。
○俗に言われている「ポリフェノール」は、善玉のことで、
1.植物成分に多い。
2.2つ以上のフェノール性水酸基がある。
3.抗酸化作用を発揮して、細胞を死から守る。
4.病気を予防するなど健康によい成分である。
●これに対して、悪玉「ポリフェノール」とは、
1.化石燃料、主に石炭に多い。
2.2つ以上のフェノール性水酸基がある(これは善玉と同じ)。
3.抗酸化作用もあるにはあるが、殺細胞作用が強い。
4.発癌性や突然変異などで病気の原因になる。
★★★要注意事項:○と●がごちゃ混ぜになると、知らぬ間に毒を飲んでしまいます!
以下は善玉「ポリフェノール」の具体例です。
1.赤ワインのレスベラトロール
2.緑茶のカテキン
3.漢方薬のフラボノイド
4.大豆のイソフラボン
5.ブルーベリーのアントシアニン
そして最後に、
6.コーヒーのクロロゲン酸
ま〜、実に色々ありますので、製薬会社が放っておくわけはありません。そして、大豆のイソフラボンとコーヒーのクロロゲン酸から新薬が生まれました。今日は業界最大手、武田薬品工業の骨粗鬆症治療薬を紹介しましょう。
新薬「オステン」の化学構造は、大豆イソフラボンの1種「ダイゼイン」とそっくりです。下図で赤い部分を見て下さい。その差は明白でしょう(添付文書はこちら)。
「オステン」を開発したタケダの科学者は一体何を考えたのでしょうか?
・大豆は身体に良い安全な食品である。
・大豆イソフラボンの化学構造は女性ホルモンとそっくりだ。
・大豆イソフラボンが骨粗鬆症によいという動物実験に成功した。
・大豆イソフラボンを新薬にしたいが、既知化合物なので特許が取れない。
・特許の取れる別の化合物を作れないか?
こうして新薬は「オステン」に決まりました。まだ効く薬のなかった時代でしたから、発売直後から随分よく売れたものです。
オステンは1錠200mgが44円(現在の薬価)、1日3回で132円、1年飲めばほぼ5万円になります。大豆イソフラボンの効果も負けてはいませんが、大豆で1日600mgのイソフラボンを食べるには、もし納豆なら50gパックで12パック必要です(詳しくはこちら)。
そこで、大豆イソフラボンを増量した食品を作れないものかと思っても、規制があってできません。その規制とは、
★★★特定保健用食品(トクホ)では、大豆イソフラボン含量の上限を1日30mgとする。これ以上は安全性を保証できません(詳しくはこちら)。
厚労省が定めたこの内容が正しいとすれば、納豆1パックは危険です。豆腐1丁も危険です。勿論トクホにはなりません。ですから日本に住んでいる限り、大豆イソフラボンの恩恵を受けるには、自分で意識して普通の大豆製品をせっせと食べる他ないのです。
正に大豆製品は「医食同源を地で行く食品」なのです。トクホを作って儲けようなどという商売は、大豆に限れば成り立ちません。医薬品「オステン」でさえ、大豆より効くという証拠はありません。そのくせ発売から20年、特許が切れた「オステン」には、10種を超えるジェネリック医薬品が出ています。一方、トクホの規制が適用されるサプリメントは、1日30mgの取説どおりに飲んでみても意味がありません。結果として「くすりの一人勝ち」になっているのです。
薬事法って、不思議なものですねえ。
(第20話 完)