シリーズ『くすりになったコーヒー』

 前回、コーヒーで予防できる癌はウイルスが原因の癌だけで、その他の癌は良くも悪くもならないと書きました。何故かというと、コーヒーで予防できるという証拠が集まっているのはウイルス性の癌だけだからです。では、その他の癌については期待できないのでしょうか? 少しつけ加えておきましょう。

☆1.日本女性の大腸癌は、コーヒーを飲んでいると罹りにくい。


「コーヒーを飲んでいる日本人女性は大腸癌にかかりにくい」と論文発表したのは、厚労省の研究グループでした。このグループはメディアを通じた一般向けの報道にも熱心です(→ こちら)。


 しかし、なぜ女性だけなのでしょうか? なぜ男性には効かないのでしょうか? 外国人ではどうなのでしょうか? 実は海外の調査結果のほとんどは、コーヒーを飲んでいても「何も変わらない」、「予防するとは言えない」というのです。厚労省研究グループの「予防できる」という結果についても、理由はわかっていません。今はまだ「大腸癌予防のためにコーヒーを積極的に飲むべきです」とまでは行かないのです。

☆2.BRCAという遺伝子に変異のある女性の乳癌は、コーヒーを飲んでいると罹りにくい。


 BRCAという遺伝子は、細胞の異常な増殖を抑えるので、発癌リスクも下がります。しかし、BRCAに突然変異が起こると逆に発癌しやすくなります。カナダの研究グループによれば、コーヒーを飲めばこのリスクが下がります(→ こちら)。


 理由を調べてみたところ、「乳癌の原因となる女性ホルモンとコーヒー成分のカフェインは同じ酵素で代謝されている」こと、および「この酵素はBRCAの働きに関与している」ことがわかりました(→ こちら)。

 さらに、スエーデンでは、「このタイプの女性がコーヒーを飲んでいると、ブラが小さくなってくる」ので、「乳腺の細胞分裂が減ってきて発癌リスクが下がったらしい」というのです(→ こちら)。


 ところで、☆1と☆2の内容は、まだ確定しているわけではありません。しかし、遺伝子の型が何であっても、コーヒーを飲むことで発癌リスクが減るという話は歓迎できます。今は病気でない女性にとっても、コーヒーを飲む楽しさが膨らむというものです。ですが、ブラのサイズが気になる方は、コーヒーを3杯以下に減らして、その代り必ず乳癌検診を受けて早期発見に努めるべきです。


 最後に念のためですが、「コーヒーは胃癌リスクを高める」というブログ記事が色々あります。本当でしょうか? 確かにそういう論文もあります。でもその一方で逆の論文もたくさんあります。食べ物で病気が予防できるという話には、多くの情報が絡み合っていますから、よく整理して、どれが一番信用できる情報なのか、見極める必要がありそうです。


☆☆☆情報の信頼性ランキング


1位 新薬の大規模臨床試験(疫学介入研究)


2位 食品などの大規模アンケート/面談調査(疫学観察研究)


3位 小規模ヒト試験(特定保健用食品の申請用データなど)


4位 動物実験または試験管内実験


5位 有名人や権威ある人の思いつき発言(詳しくは → 珈琲一杯の薬理学


★★★コーヒーが癌に効く!という過剰なPRにも騙されないようにしましょう。


☆☆☆肝炎ウイルスとヒトパピロマウイルスの発癌が心配なら、第17話をご覧ください。


(第18話 完)


栄養成分研究家 岡希太郎による
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