「救急車がくるまで手当してました・・・」というように、重症患者の手当は治療ではありません。子供のすり傷の場合はどうでしょう。お母さんが「膿まないように手当しましょうね」というのは治療することです。手当とは、怪我や病気の程度によって意味が違います。


 医者に見放された要介護老人の場合・・・厚労省は介護という名のもとに手当することを勧めています。しかし、手当は治療ではないとの理由から国が支払う手当料は見るも哀れな少額で、介護福祉士の仕事を続けるのは難しい現実です。


 面白いことに、仕事に対する報酬のことを手当と呼ぶにもかかわらず、本俸に比べるとずっと少額で寂しい限りです。そこで、手当の語源を調べてみると、なんと新約聖書に行き着きました。


☆☆☆「手を当てなば癒えん」 現代用語では、「(イエスが病人に)手を当てたら(病人は)癒されました」


 新約聖書には何ヶ所かに手当で病気を癒す話が出てきます。今の日本にはこの話をまともに信じる人は少ないでしょう。以前、筆者もそうでした。ただし、キリスト教徒とはいえ三浦綾子氏の次の文章を読んだとき、筆者は本当かも知れないと思ったのです。


「・・・聞くや否や(夫の)三浦は、傍らに座って、牧師の膝に三十分程手を当ててやった。相当に痛むらしいので、どの程度効果があるかどうか不安だった。が、帰るとき足を引かずにすむようになっていた。翌日の知らせでは、なんと足の痛みはあのまま治まり、・・・」(特別寄稿「介護される身となって」 伝承と医学 第9号 ポエブス舎)


 氏はさらに、「手当療法はオールマイティーではないが、意外な効果をしばしば見た」とも書いています。


 新約聖書に書かれた手当の話は、紀元前のヒポクラテス医学に見られるもので、その精神は1000年後にペルシャの「アヴィセンナの医学書(珈琲一杯の薬理学)」に継承されています。ラテン語版は西洋医学に大きな影響を与えましたが、メスと新薬が中心の現代医学では、手当の存在感はないに等しいものとなり、今や一部民間にかすかな痕跡を残すだけです。


 実際の手当では、癒す者も癒される者も気を静めてじっとしている状態が続きます。現代科学で推論すれば、「副交感神経が優位な状態になっている」と考えられます。病人は大なり小なり自律神経失調ですから、熱や痛みや苦しみで高ぶった交感神経を、呼吸を整えれば鎮めることができるのです。


アヴィセンナの基本的な考え方は、中国の中庸の心と共通しています。話はそれますが、ワインの飲み過ぎは人心を撹乱するとも書かれていますから、麻生内閣にも輪読をお勧めしたいものです。


 一方、インドや中国の仏教文化では、ヨーガ、気功、太極拳などの心身鍛練法を取り入れた(副交感神経支配の)呼吸法をマスターし、中庸の精神を育むとされてきました。現代日本では、美容とダイエットという外見の魅力が注目されているようですが、心が磨かれれば自然と外見にも魅力が生じます。切っ掛けなどはどうでもいいと思います。


 呼吸を上手に行えば自律神経バランスが回復します。手当をするとき病人の息づかいに注意して、口を開けていないか、鼻呼吸をしているか、お腹を使っているかだけでも見てやれば、手当の効果は格段に向上するはずです。しかし家庭でできる手当のノウハウに呼吸法は入っていないのが普通です。


 さて、聖書に由来する手当と仏教社会の呼吸法を結ぶキーワードは?といいますと、それは「副交感神経」ではないでしょうか。手当の効果はややもするとテレパシー/超能力として専門家から疑いの目で見られますが、専門家が科学的に検証しないことの方が問題です。


 まあ専門家に頼まなくても、手当の効果を納得するのにテレパシーは不要です。病人の不安な気持ちは見守る人の存在そのもので癒されるからです。子供には親がいます、年寄りには家族がいます(今は介護福祉士かも)・・・ということを思えば、手当をテレパシーなどと揶揄する人はいなくなるはずです。


●カフェインとコーヒーは手当や呼吸法の効果を高めるのに有用です。


 薬理学的な根拠を問われれば、カフェインとコーヒーは副交感神経を優位な状態にするからです。コーヒーの効果はカフェインより確かです。何故ならカフェイン以外の成分が相乗効果をもたらすからです。そして病気の不安が少しでも癒されれば、自然と自然治癒力が働きはじめます。


☆☆☆人体の自然治癒力の源は、副交感神経優位の自律神経系の安定化


☆☆☆副交感神経を優位にする生活習慣とは?


1.普段から腹式呼吸をする


2.1日数回の深呼吸をする


3.1日数杯のコーヒーを飲む


4.病める者には手当をする(他人に優しくせよという意味です)


一部のお昼寝喫茶ではコーヒーを飲んでから昼寝をするように勧めています。何故なら、スッキリした目覚めを期待できるからで、それはカフェインの効果というわけです。しかし本当の理由は、カフェインを含めたコーヒーの成分が副交感神経を刺激して、短いけれども深い眠りをもたらしてくれるからなのです。


 春闘シーズンです。コーヒー好きの働くサラリーマンに御手当てを!


(第8話 完)

栄養成分研究家 岡希太郎による
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