シリーズ『くすりになったコーヒー』


「ダイエットコーヒーは効くんですかねえ・・・」と、久しぶりに大学(八王子市の東京薬科大学)を訪問したとき、メタボに悩む昔の同僚に聞かれました。


 そこでコーヒー焙煎会社の社長さんに聞いてみたら、焙煎業者の間では「コーヒーがダイエットに効く」のは常識だそうです。業界常識が一般常識にならないのは、学会が認めるデータがないからです。


 ならば学会から認められるように、周辺情報を集めて因果関係を整理したらどうなるでしょうか。文豪松本清張が社会の謎を極めたように、コーヒーデータの点と線を極めてみたくなりました。それが珈琲研究家としての私の流儀ですから。


 最初に紹介するのは、コーヒーが糖尿病を予防するというメタ解析の中身です。


http://www.jstage.jst.go.jp/article/yakushi/127/11/1825/_pdf


 この論文の1827ページに書いてあるように、コーヒーの糖尿病予防効果は「太った人でより効果的」なのです。どういうことかといいますと、糖尿病にならなかった人達とは、コーヒーを飲んでいたというだけでなく、コーヒーで体重を減らした人達のことなのです。


http://www.nature.com/ijo/journal/v29/n9/abs/0802999a.html


 これとは別の研究で、コーヒーを飲む人の血中アディポネクチン(脂肪をエネルギーに変える体内物質の1つ http://metabolic.jp/metabolic03.htm)は、コーヒーを飲まない人より高くなっています。


 さらに別の研究者の実験で、アディポネクチン値が上がるのはカフェインのお陰だということもわかりました。


 以上をまとめますと、次のような因果関係が浮かんできます。


●カフェインを飲めば体脂肪が減って体重減少につながる。


 ここで重要なことは「アディポネクチンは脂肪組織で作られる」ということです。ですから脂肪を蓄えたメタボな人ほど、コーヒーでアディポネクチンができやすい、メタボな人ほどコーヒーダイエットが成功しやすいということになるのです。


●コーヒーダイエットは体脂肪が多い人ほど効く。


 さて、アディポネクチンは非常に役に立つ物質ですが、飲んで効く薬ではありません。一方、カフェインは昔からある飲み薬です。しかも薬というだけでなく公認された食品添加物でもありますし、第一お茶かコーヒーを飲みさえすれば、誰でも何処でもとることができる便利な栄養素とも言えるものです。


 日頃の生活のなかでほんの少し工夫すれば、1日にとるカフェインの量を薬のようにコントロールすることも可能です。要点は、レギュラーコーヒー1杯で、約100ミリグラム、お茶1杯ならその半分です。コーヒーの場合、デカフェやカフェインレスもあるので気をつけましょう。


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 コーヒーやカフェインでダイエットするには、1日500ミリグラム以上が必要です。コーヒーなら5杯です。この数字は疫学調査からの予測ですが、当たらずといえども遠からずの数字です。ただし、カフェインで心臓がドキドキする人にはお勧めできません。


 コーヒーが苦手な人は、不足分をカフェイン飲料や米国製サプリメントで補給することもできますが、大衆薬はさらに便利です。薬局で「カフェインの眠気覚まし」と言えば売ってくれます。風邪薬にも入っていますが、風邪薬でカフェインを補給するのは危険です。


 カフェイン補給は「あくまでもコーヒーで」という人のために、とっておきの話をしましょう。ダイエットに効いているのはカフェインだけではないということです。シリーズ第2話に書いたニコチン酸とその仲間のメイラード酸も有用です。ということでダイエットには深く煎ったコーヒーのほうがより有効と言えるのです。


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●「糖尿病はそれほど気にならないが、ダイエットは成し遂げたい」人には、深煎のフレンチかイタリアンを、1日2〜3杯でOK。


●「太ってはいないが糖尿病が気になる」人には、浅煎のミディアムかハイを、1日2〜3杯でOK。


●「肥満と糖尿病の両方とも気になる」人には、浅煎と深煎の1:1ブレンドを、1日2〜3杯でOK。


もっと詳しく知りたい人は(oka@toyaku.ac.jp)に質問してください。暇を見つけて回答します。


 さて、これほど有用なカフェインがダイエット薬になっていないのは何故でしょうか?その答えは簡単です。製薬会社が高い開発費をかけてカフェインをダイエット薬に仕立てても、そんな薬は誰も買わずに、コーヒーの売り上げが伸びるだけだからです。


おっともう1つ忘れていました。最近バナナダイエットが大人気ですが、発案者ご自身は今ではキウイダイエットにご執心の様子です。念のためですが、コーヒーに代用品はありません。


(第4話 完)


栄養成分研究家 岡希太郎による
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