シリーズ『くすりになったコーヒー』


 コーヒー豆を焙煎すると苦味成分としてフェニルインダン類、浅煎コーヒーのほろ苦さの素、が出来てきます。それが有難いことに、高尿酸血症の原因となる酵素/キサンチンオキシダーゼ(XO)の阻害薬であることが発見されました(詳しくは → こちら)。


 その前に、高尿酸血症が何故悪いのか説明しておきましょう。図1を見て解るのは、女性でも男性でも、血清尿酸値が標準値より高くなると心血管病になりやすくなる。すると心臓死のリスクが高まる。だから、高尿酸血症になったら血清尿酸値を下げる薬(XO阻害薬)を飲むことになる・・・ということです。ここで1つ問題があります。この薬が効き過ぎると、尿酸が減り過ぎて、逆に心臓病のリスクが高まるのです。このややこしい関係をJ字型関係(図の赤破線)と呼んで、薬の量の匙加減が大事になってくるのです。血清尿酸の適正値は、女性で3~4、男性では4.5~5程度で、かかりつけ医はこの数値の動きを見ながら飲む薬の量が決めています。



 では今回の論文の説明です。「コーヒーを飲む人は痛風になりにくい」という言い伝えは以前からありました。やがて疫学研究が始まって、言い伝えは正しいらしいとのデータが出てきたのですが、その効き目は今一で、見方によってはほとんど効かないとの意見もあります。今日の論文の著者は以前からこの問題に取り組んで、もしコーヒーの言い伝えが正しければ有効成分が見つかるはずと信じて実験を続けてきたのです。


 効き目が弱いものの確かに作用があると言われていたのはクロロゲン酸でした。そこで著者は、クロロゲン酸の要素であるカフェ酸に注目して、その結晶を試験管に入れて高熱をかけて、できた産物の化学構造とXO阻害作用を調べました。結果をまとめて図2に示します。


 まず、カフェ酸を110℃~290℃で加熱すると、全部で18の化合物ができてきました。そのうちフェニルインダン類(赤枠で囲った4つ)の作用が最も強いことと、これら4つは170℃で加熱したときに最も多くできることも解りました。



 図2の棒グラフは、加熱温度の違いでXO阻害作用に差が出ることを示しています。赤い棒が170℃の効き目で、阻害率は70%を超えています。カフェ酸の作用に比べると3倍強の効き目です。化合物7~10と15と16もフェニルインダンの仲間ですが、作用は弱いものでした。


 以上をコーヒーとしてまとめると、尿酸値の高い人が痛風と心臓病を予防するために飲むコーヒーとしては、170℃前後で焙煎すると一番効くということになります。ただし、筆者としては、XO阻害作用を示す食事由来の成分は他にも色々ありますし、高尿酸血症の原因となる食べものも色々あるので、コーヒーに何処まで拘るかは人それぞれにお任せして、「美味しいコーヒーを飲む」ことがもっと大事だと思っています。


(第389話 完)


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