シリーズ『くすりになったコーヒー』
新年明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願いします。
さて、初ブログは干支のマウス実験ですが、興味深い話です。病気の種類によってニコチン酸の作用メカニズムが異なるという極く最近の2論文、脂肪性肝炎と腹部大動脈瘤を紹介します。図1を参照してください。
●ニコチン酸はマウスの腹部大動脈瘤を予防した(詳しくは → こちら)。
マウスに薬物(アンジオテンシンII)を投与すると大動脈瘤ができる。このときニコチン酸またはニコチナミドを前投与しておくと、ニコチン酸群のマウスには動脈瘤ができなかったが、ニコチナミド群では無効だった。
次に、遺伝子操作でニコチン酸受容体GPR109Aを除去(ノックアウト)したマウスで実験すると、ニコチン酸は同じ様に作用して大動脈瘤を予防した。まとめると、ニコチン酸の大動脈瘤予防効果はビタミンとしての作用で、NADを介して発現したと言えるのです(図2を参照)。
図2に、ニコチン酸のビタミン作用をまとめました。詳しくはキャプションをお読みください。追加すると、食事で摂るトリプトファンから、僅かですがNADが作られます。この経路のことを専門用語で「デ・ノボ経路」と呼んでいます。コーヒーのニコチン酸は、この経路に合流してNADに変わります。変換率はNAD全体の98%を占めるので、老化マウスの場合、たった1回のニコチン酸投与でNAD血中濃度は4倍に増加しました(第395話を参照)。
NADの一部はミトコンドリアに入ってエネルギー産生に寄与した後、分解して無くなります。しかし、部品はリサイクルされて活用されます。リサイクルの効率は、若いうちは非常に高いのですが、年を取ったり病気で体力が落ちたときは下がってしまいます。そこでこのリサイクル(専門用語でサルベージ回路)の効率を高める工夫が盛んに研究され、不老長寿のサプリメント作りが模索されているのです(第395話を参照)。
では次に、脂肪性肝炎の場合です。
●ニコチン酸は、高脂肪食で脂肪性肝炎を発症したマウスの症状を回復させた(詳しくは → こちら)。
この実験を、受容体GPR109Aをノックアウトしたマウスで行うと、ニコチン酸の作用は現れませんでした。つまり、食事性の脂肪性肝炎を治療するニコチン酸の作用は受容体を介した作用なのです。ただし、この実験で観察されたニコチン酸の効果の中には、ビタミン作用が混ざっていると考えられます。何故なら、ニコチン酸受容体作用が発現するにはビタミン作用量の10倍以上の投与量が必要だからです。ですからニコチン酸の大量投与では当然ビタミン作用も発現していると考えられます。
図3に、ニコチン酸の受容体作用をまとめます。よく知られていることには、運動でも仕事でも、ヒトがストレスを受けるとストレスホルモンが分泌されます。アドレナリンとコルチゾールです。これらは、脂肪細胞の表面にあるそれぞれの受容体に結合して、備蓄されている中性脂肪を分解して血中遊離脂肪酸を増やします。つまり血液ドロドロ状態を作るのです。それでも、筋肉を動かしていれば、ドロドロになった遊離脂肪酸は必要なエネルギー源として燃えてなくなります。
問題は精神的なストレスの場合で、ドロドロ血液が燃焼し切れずに肝臓に溜まって、脂肪肝を悪くします。このときニコチン酸があれば、同じ細胞表面の受容体GPR109Aに結合し、アドレナリンとコルチゾールの作用を抑えてくれます(図3の右側)。これがニコチン酸の抗ストレス作用で、その結果としてストレスによる脂肪肝の増悪が抑えられるというわけです。
ニコチン酸の受容体作用は、脂肪細胞以外でも現われます(図3の左側)。例えば皮膚細胞では血管の拡張が起こり、もしこれがマスト細胞のヒスタミン分泌と重なると、副作用としてのナイアシンフラッシュが起こります(第395話を参照)。また肝細胞では善玉コレステロールとも言われるHDLの増加が起こりますし、血液細胞では炎症反応の抑制が起こります。これらの知見の詳細は省略しますが、どれも最近になって解ってきたことで、今後のニコチン酸研究の目玉になっているのです。
●コーヒーにはビタミン作用量のニコチン酸が含まれているが、受容体作用には少な過ぎる。
深煎りコーヒー1杯には最大ほぼ5ミリグラムのニコチン酸が含まれています。この量で発現する作用はビタミン作用だけで、受容体作用は現われません。しかしその僅かなニコチン酸からできるNADが、老化関連疾患を予防して、死亡リスクを下げるのです。そのニコチン酸が、国内の製薬と食品産業界で無視されているのです。最後に筆者が言いたいことは、国内での製造販売が2019年で中止になったニコチン酸ですが、
●2020は「ニコチン酸復活の年」になって貰いたい。
(第398話 完)
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