シリーズ『くすりになったコーヒー』


 「希太郎ブレンド」の目玉は、何と言ってもニコチン酸にあります。ニコチン酸の名前はタバコのニコチンを連想させるので、ビタミンの名前としては好ましくないとのことで、「ナイアシン」に改名された歴史が残っています。筆者もそろそろ呼び方を変えようと思います。ただし、ニコチン酸アミドをナイアシンと呼ぶ間違いが起こらないように気をつけなければなりません。


●繰り返しますが、ナイアシンはニコチン酸アミドではなく、ニコチン酸のことです。


 生豆の焙煎で、ナイアシンはトリゴネリンの熱分解でできてきます(図1)。しかし、原料のトリゴネリンの量に対してナイアシンの量は少な過ぎます。最大でも10分の1程度しかできません。少ない理由は、ナイアシンと同時にN-メチルピリジニウム(NMP)ができることです(図1)。その他の理由として、ナイアシンが高熱で昇華して揮散すること、更なる熱分解が起こることなどもありそうです。



●ナイアシンを最大量に仕上げる焙煎法とは?


 15年も前のことです。筆者のコーヒー初実験は「フライパンで生豆を焙煎しながら時々サンプルを抜き取ってナイアシンを分析すること」でした。データは日本特許になりましたが、何せフライパンですから再現性に欠けています。今は手網で焙煎していますが、見かねたFacebook友達の焙煎士の方が、最先端の焙煎機を使って協力してくれました。これまでに分かったことは、文献に書いてあるよりずっと低温で、150℃程度でもナイアシンはできること、2ハゼ音が終わる頃にピークを迎え、その後、煙が黙々と立つ頃には減ってしまうということです。


 ナイアシンのでき方に関するこれらの知見を、前回のクロロゲン酸の変化図に描き加えました(図2)。1ハゼ音が終わる頃からナイアシンが増えはじめて、2ハゼ音が終わる頃にピークを迎えます。豆の種類や熱の掛け方によって正確に予測することは困難ですが、ハゼ音は最も確かなサインになります。しかし判断はなかなか難しいのも確かです。



 他にも使えそうなサインがあります。図3は希太郎ブレンドの例示です。左端は浅煎りと深煎りの出来上がりです。この深煎りの出来上がりは2ハゼ音で判断したのですが、そのとき同時に、手網から飛び出してくる胚乳のかけらがありました(写真中)。このかけらは円形で、俗称「10円玉」と呼ばれています。乾燥した胚乳が熱ではじけて飛んだものなので、残っている豆の方には10円玉の穴が残ります(写真右)。「2ハゼがそろそろ終わりかな」と感じたとき、この10円玉が飛び出したら終わりの合図と見做すのです。



 この終わりの合図に気づかずに焙煎を続けていると、煙が立ち始めて、豆の表面にオイルが染みだし、テカテカ光って見えてきます。この状態はナイアシンが昇華したり分解し始める合図です。深煎り独特のコクを求めるならいざ知らず、ナイアシン含有量の観点からは焼き過ぎになってしまいます。


●それでも焼き続ければ発火する。


 2ハゼ音が終わる頃から、豆の状態は秒刻みで変化します。図2にそれらの変化をまとめて示しました。手回し焙煎の達人と呼ばれる大坊勝次氏によれば、「この頃のある一瞬に甘味を感じる豆ができる」のだそうです(写真)。氏の手回し焙煎は非常にゆっくりと焼き上げるので、筆者の手網やフライパンと比べると、ナイアシンのでき方も大分違うかもしれません。



●「ナイアシン含有量」に焦点を当てて焙煎の技を探ってみると、誰も知らないコーヒーの魅力が見えて来る。


(第401話 完)


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