シリーズ『くすりになったコーヒー』


 前回までに「浅煎りのコツ」と「深煎りのコツ」を書きました。ではいよいよ「ブレンドのコツ」を説明しましょう。


●希太郎ブレンドの超浅煎りと深煎りの割合は、クロロゲン酸とニコチン酸の量で決める。



 超浅煎り豆をブレンドする目的は、薬理学的に有用な量のクロロゲン酸を摂るためです。と言っても薬ではないので正確な量は不明ですから、これまでの論文から総合的に判断するしかありません。


●超浅煎豆には1杯10グラムあたり300-400ミリグラムのクロロゲン酸が入っている(自験)


 花王の研究によれば、1回に150ミリグラムで血圧降下が見られるので、この量なら希太郎ブレンドに50%ブレンドすればよいことになります。1日3杯飲むとしたら33%ブレンドすれば、1回100ミリグラム、3杯で300ミリグラム摂れるので、1日のクロロゲン酸量としては満足すべき数値です。花王のヘルシア缶コーヒーの含有量を若干上回っています。そこで数字の端数を捨てて、超浅煎りのブレンド比は30%以上ということにします。図2に希太郎ブレンド3:7の円グラフを示します。


 次に、深煎り豆のニコチン酸について考えましょう。こちらはビタミンなので、1日に必要なVB3の量が定められています。男性で15ミリグラム、女性なら10ミリグラムです。ただし、VB3にはニコチン酸アミド(コーヒーにはない)もあるので、その点に配慮が必要です。


●深煎り豆のニコチン酸含有量は、1杯10グラムあたり最大5ミリグラム


 しかし、これだけの量を含む焙煎はなかなかできません。筆者の経験では手網焙煎では4ミリグラムが妥当です。それでも1日3杯飲めば12ミリグラムになりますから、男性なら必要量の80%、女性なら120%に相当します。しかし、クロロゲン酸も摂るとなりますと、深煎りの割合は最大70%なので(図2を参照)、結局ニコチン酸の1日充足率は男性の場合56%、女性なら84%となります。つまりコーヒーだけで必要なVB3を充足することはできません。



 ではここで、コーヒーと食事との関係を復習します。ミトコンドリアを元気にするVB3は、補酵素NADになって働きます。ニコチン酸はNAD前駆体の1つで、コーヒーの他にキノコとピーナッツにも含まれています。大豆にもありますが、量はずっと少なくなります。もう1つのVB3はニコチン酸アミドです。他にアミノ酸のトリプトファンも前駆体ですが、NADへの変換率はトリプトファン量の60分の1なので、これは無視することにします。となりますと、ニコチン酸とニコチン酸アミドの関係を、加齢現象も含めて知っておく必要がありそうです。


●コーヒーを飲まない人は、キノコとピーナッツだけからニコチン酸を摂っている。


 ですからNAD前駆体としてのニコチン酸摂取量は大して多くありません。それでも若い人ならVB3欠乏症にはなりません。その訳は、NAD前駆体としてニコチン酸アミドを利用しているからです。


●若いうちなら、コーヒーを飲む人のNAD前駆体はニコチン酸とニコチン酸アミドの両方なので十分に充足している。


 ということですから、希太郎ブレンドのニコチン酸で不足する分は、ニコチン酸アミドをたっぷり含んでいる肉と魚で賄えばよいということになるのです。問題は高齢になってからで、この場合はニコチン酸アミドはあってもないようなものなのです。


●高齢者の希太郎ブレンドは、深煎りを増やす必要があるが、クロロゲン酸とのバランスでブレンド率は70%までである。


 そしてニコチン酸アミドが役に立たないというならば、更なる工夫が必要です。コーヒーの杯数を増やすことはできません。何故なら飲み過ぎは薬と同じで「諸刃の剣」になるからです。そこで考えられるのは、コーヒー以外にニコチン酸を含んでいるキノコとピーナッツの出番です(図2)。


●食用キノコは培養できるので四季を通じて食べられる。


 キノコは種類も豊富ですから料理のレシピを工夫すれば色々使えるし楽しめるというわけです。中でも価格も安いヒラタケは50グラムで深煎り1杯に相当するので、ニコチン酸供給源としてはまたとない食材なのです。


●大粒ピーナッツのニコチン酸含量は多いが、ピーナッツオイルの摂り過ぎには要注意:1日10粒までが無難


 ピーナッツが血管を丈夫にするとのデータがあります(詳しくは → こちら )。その理由として、かつてNHK総合TV「ガッテン!」がピーナッツオイルの効能として放送しました。しかしこれが大間違いであったことは明らかで、本当の理由はピーナッツに高濃度に含まれているニコチン酸が役に立っているのです(詳しくは → こちら )。


 以上は、クロロゲン酸とニコチン酸の比率、及び加齢に視点を置いた考察です。しかし、どんなコーヒーを飲むかについて、誰にでも当てはまる決まりはありませんし、第一に美味しくなければ飲みたくなりません。


●希太郎ブレンド3:7は1つの基準に過ぎない。


比率を色々に変えて自分に合った味を見つける楽しみがあります。料理によって、体調によって、コーヒーの味が大きく変わることへの驚きも実感できます。更に、退職して時間ができたら、自分でコーヒーを焙煎するのもお勧めです。自分の名前をつけた自慢のブレンドを他人に振舞う生活習慣が、予期せぬコーヒーの付帯効果として認知症の予防になるのです。


●おいキタロー、今日は何対何にするのかい?

(第402話 完)


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