シリーズ『くすりになったコーヒー』
●超浅煎りと深煎りを混ぜて挽くには、臼式ミルを使うのが良い。
「抽出のコツ」についてお話しする前に超浅煎り豆の挽き方についてちょっと注意することがあります。超浅煎り豆と深煎り豆の硬さには大きな差があって、一緒に混ぜてプロペラ式ミルで挽くと粒度に差が出てしまいます(図1左)。超浅煎り豆は硬くて粗く、深煎り豆は柔らかで細かくなってしまうのです。ですから浅煎り豆に多いクロロゲン酸の抽出率が下がってしまいます。臼式ミル(試してみたのはテスコム電機製)なら強靭な刃で擦り切るので、硬い豆も同じように挽けるのです(図1右)。臼式でも使用中に破損する製品があるので要注意です。
●抽出器具 断凸の1番は「ドリップ式」
顆粒の準備が整ったら、いよいよ抽出が始まります。抽出の道具には色々ありますが、健康に良くかつ美味しいコーヒーを淹れるにはドリップ式が1番です。ネルでも紙でも大差はありません。では何故ドリップ式が良いのかと言いますと、オイルに溶けている旨味の成分だけを抽出して、オイルにしか溶けない悪玉ジテルペンはそのままオイルに置いてくるからです。
わかり易く実験してみましょう。なるべく深く煎った豆の顆粒をカップに入れて、そこに熱湯を注ぐと大なり小なりオイルが浮いてきます。これをそのまま飲むとオイルとジテルペンが一緒に口に入ります。トルココーヒーの飲み方です。そこでこのカップの中身をペーパーフィルターに通してみると、ろ液の表面にオイルはありません。
では最初からドリッパーを使って抽出してみましょう。ろ紙もネル(木綿)もセルロースなので大した違いはありません。目には見えませんが、オイルがろ紙やネルのセルロース繊維に絡まってそこに留まります。ゆっくりと湯を注ぐことで、オイルに溶けている香りと旨味だけが湯に移って抽出されます。オイルは湯に溶けないので最後まで繊維に絡まって、そこに悪玉ジテルペンが残ります。その様子を描いて見ました(図2)。
●悪玉の量は道具で変わる。
抽出の道具を変えると抽出液中のジテルペンの量が変わってきます。オイル中のジテルペンにはカフェストールとカーウェオールの2つがあって、オイルと一緒に動きます。抽出液にオイルが多いと、ジテルペンの量も多いのです。図3をご覧ください。北欧の煮出しコーヒーと中東のトルココーヒーは、抽出液の表面にオイルが浮いて、ジテルペンも大量に含まれています。その量は、プランジャー、モッカ、エスプレッソの順に減少して、一番少ないのはドリップ式です。ネルのデータはありませんが、ソックコーヒーの木綿やペーパーフィルターのデータと同じ程度と思われます。まとめると、コレステロール値に影響しない抽出法とは、ろ紙でもネルでもドリップ式に限ります。
●湯の量が少ないほど味が良く確かな効き目
では次に、健康に良い影響を及ぼす成分を抽出します。図4をご覧ください。先ずはこのグラフを描いた実験です。深煎りした焙煎豆40グラムを中挽きし、ペーパーフィルターに乗せて湯を注ぎます。抽出液を20ミリリッター(mL)ごとに分取しながら280ミリリッターを注いで、240ミリリッター(12分画)を回収しました。分画ごとにNMRスペクトルを測定して、化合物①~⑨のシグナル面積を測定し、相対的な濃度比(対数表示)として作図しました。
図4から色々なことが解ってきました。実験に使った豆は深煎りなので、クロロゲン酸は含まれていません。カフェイン②と未知の苦味/渋味⑨を除くと、その他の成分はほぼ同じような形のグラフになっています。①の濃度は分画2と3で最大値で、分画7と8の間で100分の1に減りました。ほとんど(100%)が出終わったことがわかります。③と⑤~⑧も分画⑧までに出終わっています。④は出終わってはいませんが、分画3の10分の1以下になっていました。
分画⑧でも出続けていたのは②のカフェインです。とは言えカフェインは主成分である上に、多く摂り過ぎると問題が発生するリスクをはらんでいます。ですから分画7または8辺りで抽出を終わらせることが、カフェインの摂り過ぎを防ぐ賢い方法と言えるのです。
では味はどうかと言いますと、オイルに含まれている香りの成分(良い味)は、種類が多く個々の量が微量なので、NMRでは正確に分析できません。しかし、オイルにも湯にもよく溶けるので、もし図4に描けば似たような形になっていると考えられます。逆に⑨は悪い味の成分なので、湯量を減らせば抽出せずに済むのです。
文献に書かれている抽出液の感性テストによれば、ドリップ式では「最初に流れ出る溶液の味が最もよい」となっていますから、顆粒のなかではオイルに溶けている良い味の香りの成分が、最初に流れ出ているはずなのです。
以上をまとめると「良い味で効き目も確かな成分は早く流れ出してくる」。
●コーヒーは濃く淹れて薄めて飲む
浸漬法で美味しいコーヒーを淹れるには、「濃く淹れて薄めて飲む」と最初に言ったのは、日本コーヒー文化学会会員の高木誠さんでした(詳しくは → こちら )。
同じことがドリップ式でも成り立ちます。ドリップ式では1杯分に当たる10グラムの豆の効き目の成分を抽出するのに、40ミリリッターの湯が必要です(図4を参照)。言い換えればそれ以上の湯は無駄になるどころか、不味い成分まで抽出してしまいます。流せば流すほど味は落ちてくるのです。それでは1杯の湯量が少な過ぎて物足りないというときには、40ミリリッターの抽出液を好きな量まで湯で薄めればよいのです。つまりドリップ式でも「濃く淹れて薄めて飲む」というコンセプトが成立しています。
図5をご覧ください。1日3杯のコーヒーを飲むとして、30グラムをドリップするときの説明です。3杯とは、薬と同じように朝・昼・夕に飲む分です。そして120ミリリットルが流れたら抽出終了ですが、ある程度の幅が出ても問題はありません。ここでは我が家のドリッパーのメモリに合わせて150になっています。
●濃く淹れたコーヒーを薄めるには色んな方法がある。
図5には、湯、氷、牛乳、レモン汁を書きましたが、これらの他にも好き好きで選べばよいのです。ただし、もし問題があるとしたら、アルコールや甘い飲み物で薄めることは、人によっては問題です。糖尿病が怖いとか太りたくないという人は甘いものは避けるべきですし、肝臓に問題があればアルコールは避けるべきなのです。
最後に、コーヒーは至って文化的な飲みものですから、個人の好みで自分に合ったコーヒー探しをお楽しみください。
(第403話 完)
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