シリーズ『くすりになったコーヒー』


出典:Eur Rev Med Pharmacol Sci. 2020;24(9):5189-91.


著者 G. Gasbarrini,et al. (日本語訳 岡 希太郎)


 腸内細菌叢の重さと比較すると、ウイルス(viruses)は微々たるもので、評価の対象になりません。腸内細菌叢(viroma)の重さはほぼ1kgですから、専門家に言わせればウイルスの重さはないに等しいのです。それにも拘らずウイルス叢は非常に重要な要素で、他の微生物と協力的に情報を共有し、非常にスマートに特性を発揮しているのです。


 多くの研究者がウイルスや細菌が私たちの免疫系に及ぼす影響を研究しつつ、時には代謝、心血管、自己免疫、腫瘍性疾患などの異なる病態を引き起こすこと、その病気の原因が明らかに異なっていること、にも拘らず共通の背景として微生物叢があることに気づいています。


 実際、細菌感染でもウイルス感染でも、微生物病原体が係わる過程では、免疫応答が修飾されるとの証拠が揃っていて、微生物病原体が治療の標的となる可能性があるのです。最近になって、外因性の単独ウイルスまたはウイルス叢、あるいは腸内細菌叢にみられる集団どうしの相互作用と並んで、研究者らは新たに腸内ウイルス叢が関与する相互作用に特別の興味を持ち始めています。


 COVID-19のパンデミックで、ウイルス感染症の管理を困難にしている原因は次のようなものです。


・感染ルートを容易に移動する能力の大きさ。


・パンデミックを成立させる強力な拡散力。普通、ウイルスは環境条件に制限されて滅多にパンデミックには至りませんが、今回は感染していても無症状のことが多く、気付かないうちに拡散している。


・消化管における免疫系への影響が、大きな容積を占めるリンパ組織で起こっている。リンパ組織は臓器間の免疫と炎症の両方を司ることで、感染症の臨床経過に影響している。


・免疫反応と炎症反応の発現が迅速で、重症化する患者では合併症を誘発する。


・適切な対症療法、抗ウイルス療法、時には免疫抑制療法が必要になる。


・ウイルスが変異したり抗体産生が不十分な場合でも、ワクチンができれば、ウイルスの拡散を減らし、恐らくは毒性を弱める可能性がある。



 COVID-19の感染が、季節性インフルエンザと重なったとはいえ、手遅れになった原因に、ウイルスの強い攻撃性があります。そのため少なくとも持病のある患者では悲惨な経過をたどり、入院ベッドと集中治療室を埋め尽くしました。このウイルスによって引き起こされる病理学的損傷は炎症性/血栓性であり、ほとんどが肺循環に限局しているものの、5~10%の患者では、腸に局在する消化管症状を起こします。COVID-19患者で、消化管と肺の微生物叢に見られる相互作用はどうでしょうか?まだ誰にも解りませんが、一部の患者が完全に無症候性である理由、他の一部が軽い症状を発症する理由、またその他の患者が急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を発症する理由をより正確に理解するために、この問題に特別な焦点を当てて解決する必要があります。消化管と肺の微生物叢の違いによって、COVID-19の重症度を鑑別予測できるとの仮説は成り立つでしょうか?


 治療に関して、少なくとも筆者の考えでは、ワクチンが間に合わないことと病気の進行が著しく重篤であることから、既存の抗ウイルス薬とヒドロキシクロロキン以外に、抗炎症作用の強い副腎皮質ステロイドを単独で、または抗インターロイキン6製剤と併用する方法があります。加えて、COVID-19感染患者の強い血管内凝固と肺塞栓症を予防するために、凝固因子レベルを監視しながら早い時期にヘパリン治療が必要になります。さらに、抗生物質、特にアジスロマイシン、場合によってはプロバイオティクスの使用も、一部の患者では有用かも知れません。


 最後に、適切な防護用具なしに毎日COVID-19に対処するすべての医療従事者が抱えているリスクについて強調したいと思います。 家族や身近な人々に、結果としてウイルスを媒介してしまった医師や看護師、あるいは自ら命を落とした事例を想像してください。医療従事者が現に治療しているその病気で死ぬことなど許されることではありません。答えは常に「ノー」ですが、私たちがその職業を選んだ理由は、人々が健康を維持し病気を治すことを補助するためです。自らの感染リスクはそのほんの一部にすぎません。私たちはヒーローになるのではなく、より複雑な環境で義務を果たしているだけです。


参考文献は省略します。

(出典は → こちら)。

(第412話 完)


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