シリーズ『くすりになったコーヒー』


出典:Nature 2020;June 18

著者 David Cyranoski 日本語訳 岡 希太郎


【訳者まえがき】コーヒーは血液凝固を抑制する飲み物です(第188、216、230話を参照)。もしコーヒーに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化を予防する効き目があるとしたら、PCL検査が陽性になったら毎日コーヒーを飲んで、多少なりとも症状を軽く押さえたい、いや抑えられるかも知れないと考えています。関与成分は複数あって、浅煎りにも深煎りにも入っていますから、両者を合わせた希太郎ブレンド(第400~403話)が当たっているかも知れません。


米国で確認されたCOVID-19感染者うち子供は2%未満です。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が現われて、科学者たちは、重篤な副作用を合併する子供の数が成人よりはるかに少ない理由を知ろうと懸命に努力しています。そして今のところ、答えは「子供の健康な血管」にあるとの可能性が高まってきました。


 SARS-CoV-2の全感染者の中で、子供の感染者(COVID-19)はごく一部でしかありません。ジョージア州アトランタにある米国疾病対策センターによると、大規模調査の結果、米国人口の22%に当たる17歳以下の子供のうち、COVID-19の子供は2%未満であることがわかりました。そして、その2,572人の子供のうち、わずか5.7%(146人)が入院し、3人(0.1%)が死亡したのです。


 子供がCOVID-19にならない理由を説明する仮説が提案されています。その中には、SARS-CoV-2に対して成人よりも強い初期免疫応答(自然免疫)がある可能性、あるいは近い過去に同類のコロナウイルスに感染して多少の免疫を獲得している可能性が含まれています。その一方で、成人と子供の違いが血管の状態にあるのではないかと考える研究者が増えてきました。


 COVID-19の症状が深刻化した成人では、しばしば血液が凝固して、心臓発作や脳卒中を引き起こします。スイスのチューリッヒ大学病院の心臓病専門医であるフランク・ルシツカ氏は、通常は凝固を妨げる滑らかな内皮が機能不全に陥っているようだと語っています。本来、血栓は外傷による出血を止めるためにできるのですが、内皮が損傷を受けていると、外傷がなくても血栓ができることがあるのです。


 ルシツカ氏らは、SARS-CoV-2が全身に分布している内皮細胞に感染することを発見しました。3人のうち2人が死亡したCOVID-19患者の研究で、ルシツカ氏らは、SARS-CoV-2が患者の内皮に感染し、炎症と凝固を引き起こしていたことを発見しました。この研究は小規模だったため、更なる調査が行われた結果、内皮で起こる問題は、成人患者が重症化し、致命的な状態に至るほとんどの場合に関与していることがわかったのです。


 ロンドンのユニバーシティカレッジ病院の血液専門医であるマルセル・レヴィ氏は、この理論によれば、糖尿病や高血圧など、内皮を危険に曝している患者の場合に、COVID-19が重症化する高いリスクを説明できると話しています。



●完璧な状態とは


 ほとんどの場合、子供の内皮は成人のものよりはるかに良好です。「子供の内皮は完璧に出来上がっていますが、やがて年齢とともに劣化します」とメルボルン子供キャンパスの小児血液専門医であるポール・モナグルが語ってくれました。


 モナグルらは、子供の血管は成人よりもウイルスの攻撃に耐えることができると考えています。彼はまた、この理論のさらなる根拠として、COVID-19のほとんどの子供が過度の血液凝固と血管損傷を示さないことを指摘しています。


 モナグルはウイルスが内皮細胞に侵入したときに何が起こるかを理解しようとしています。彼はウイルスが凝固に関与する細胞、血小板および血漿成分間のコミュニケーションを破壊する可能性があり、このコミュニケーションの崩壊が過剰な血餅の形成につながると考えているのです。


 彼はこのメカニズムをよりよく理解するために2つの実験を開始しました。子供たちの血管に、ウイルスに反応して過剰な血餅を生成する可能性を低くする保護作用があるかどうかを確認する実験です。最初の実験では、子供と大人の血管内の状態を実験室で再現しようとしています。SARS-CoV-2に感染した内皮細胞を取り出して、3種類の異なる起源の血漿(子供、健康な成人、血管疾患を持つ成人)に浸します。感染した細胞が3つの異なるタイプの血漿とどのように相互作用するかを比較すれば、血管内のシグナル伝達が不調になる原因を確認できるはずなのです。


 モナグルは、子供たちのサンプルを研究することで、一部の成人が抱える問題点について手がかりを得ようとしています。彼は「子供たちに何が起こるかを理解できれば、大人の血管を微調整して子供っぽくすることができるはず」と話してくれました。


 2番目の実験では、COVID-19の子供と成人の、傷ついた内皮細胞から血漿中に出るタンパク質を分析して、そこに含まれる疾患マーカーを見つけようとしています。モナグルの期待は、「成人が重症化する原因について手掛かりを得ること」に掛かっているのです。


(第414話 完)


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
空前の珈琲ブームの火付け役『珈琲一杯の薬理学』
最新作はマンガ! 『珈琲一杯の元気』
コーヒーってすばらしい!
購入は下記画像をクリック!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・