シリーズ『くすりになったコーヒー』



 前回までの話で、COVID-19の重症化を抑える科学的原理は、2つのアンギオテンシン変換酵素ACE1とACE2のバランスにあることが解りました。不適切な腸内菌叢(エンテロタイプ2型のプレボテラ属)や主食の米(東アジアのジャポニカ種)は、ACEsのバランスを好ましい方向に修飾する役割を担っています。この原理によれば、「新型ウイルスに強い体質」と「同じく弱い体質」を数学の関係式で表現できます(図を参照)。この関係式の左辺と右辺を、1を基準に操作することで、コロナに強い体質と弱い体質の切り変えが可能です。



 関係式の中央の1は基準値で、健康なヒトが正常な血圧を維持しているときの、「ACE1とACE2の量または活性の比」と理解してください。つまり健康な人では、ACE1/ACE2 = 1ということです。ならば、ACE1を減らすかACE2を増やして、この比を1より小さくすれば、新型ウイルスに強い体質になりますし、逆に1より大きくすれば、新型ウイルスに弱い体質になるのです。新型ウイルスに強いか弱いかという体質を、腸内細菌のように俗っぽく表現するなら、ACE1は悪玉酵素、ACE2は善玉酵素と言えそうです。


 では、関係式を左へ動かす方法について、「知識は力」を信じて、表を見ながら復習します。


●日本人のACE1遺伝子は、酵素活性の弱い変異型が欧米に比べて多い(NHK解説番組は → こちら )。


 そのため、酵素活性の強い本来のACE1が少ないので、日本人の関係式は欧米人に比べてずっと左に傾いています。それでも変異型の頻度は45%程度なので、活性の強い酵素を持つ人がほぼ半数はいることになります。こういう人たちは、関係式を左にずらす努力をしないと、新型ウイルスに強い体質になれません。まずは4つの生活習慣を守ることと、必要な栄養素に富む食事を摂ることが大事です。表2をじっくりとご覧ください。



 この表に書かれている生活習慣と食べ物について、出来れば全部を実行して、関係式を左にずらせれば、そんな素晴らしいことはありません。全部が無理なら、できれば毎日コーヒーを飲むことと、必須栄養素に気配りして、コーヒーのビタミンB3だけでなく、ビタミンD(日光浴もよい)とミネラルの亜鉛を摂ることです。VAとVCは野菜と果実がついた普通の食事で十分です。


 生活習慣の有酸素運動と快適な睡眠は、実は子供が新型ウイルスに強いことと関係しています。よく遊びよく眠る子は丈夫に育つとの言い伝えの通りで、新型ウイルスに対する抵抗力も、運動と睡眠で護られているのです。高齢者が新型ウイルスに弱い体質である原因として、運動不足とメラトニン不足があげられます。


 VB3のナイアシンには、ニコチン酸とニコチン酸アミドがありますが、効果があるのはニコチン酸だけです。ニコチン酸を含む食べ物の種類は少ないので、深煎コーヒーなら1日数杯で足りますが、コーヒーはあまり好きでないなら、OTC薬のノイビタZE(総合ビタミンB剤)に頼るのが次善の策と言えるでしょう。


 ビタミンDも不足しがちな栄養素です。多く含んでいる食べ物はキクラゲ、次いでメザシがありますが、毎日食べるとは限りません。昔の人は干しシイタケが決まり文句でしたが、今は非常に高価ですし、これも滅多に食べません。替わりに是非とも習慣にしたいのが日光浴です。VDは日光浴で補給できるので、晴れた日には30分程度の日光浴、雨の季節には、サプリメント(カワイ肝油ドロップなど)が便利です。


 一番難しいのは亜鉛です。亜鉛を多く含む食べ物は、冬の味覚「牡蠣」以外にはほとんどありません。牡蠣が買えるのは冬だけですから、牡蠣のない季節は赤身の豚肉と牛肉で賄うしかないのです。しかし、これも高齢者では量を摂るのは難しいでしょう。そこで不足気味だとなれば、製薬会社(大塚製薬など)のサプリメントに頼るしかありません。


●表には書いてないが、高血圧の処方薬にACE1阻害薬がある。


 高血圧でこの薬を飲んでいる人は新型ウイルスに罹りにくいとの論文も出ています(日本の現状解説 → こちら )。しかし正常血圧の人が、感染を予防するためにこの薬を飲むことはできません。替わりに、ACE1を抑制するというサプリメントが売られています。しかし、その効き目は処方薬の100分の1程度との意見もあって、信頼できる商品選びは困難です。


●ワクチンや特効薬は実際にできてから考えればよい。


 さてさて、パンデミックはまだまだ続きますし、ワクチンと特効薬はすぐには間に合いません。アストラゼネカ社の治験中断も報道されたばかりです。仮に安全なワクチンができるとしても、50歳未満の人は重症化しないという実情を考えれば、ワクチン接種は無駄な気もします。高齢者の場合は有用かも知れませんが、それにしても、重症化しない体質改善に取り組む方がよほど現実的です。


 繰り返しますが、「知識は力」を信じて、毎日コーヒーを飲みながら、新型ウイルスに勝つ関係式を、できれば直ぐに、無理なら少しずつでも実践することをお勧めします。

(第419話 完)


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