シリーズ『くすりになったコーヒー』


「自分にはカフェインは合わない」「カフェインを摂ると体調が悪くなる」「妊娠したので止めたい」・・・色々な理由で、コーヒーを飲めない、飲みたくない、飲んではいけないという人は居るし、「コーヒーは好きだけどカフェインは怖い」という人はもっと多いと思います。そういう人と、そういう場合のために「デカフェ・コーヒー」が役立ちます(表1を参照)。




 では、デカフェコーヒーの疫学研究を紹介しましょう。


●デカフェコーヒーを飲んでいると2型糖尿病のリスクが下がる(詳しくは → こちら)。


 論文の数は決して多くはありませんが、2型糖尿病では確かなデータが得られています。カフェインを含むレギュラーコーヒーとデカフェコーヒーを比べてみると、2型糖尿病に罹るリスクを下げる効果はほぼ同じ。なのでカフェインは嫌だが2型糖尿病にはなりたくないというメタボな人にとって、デカフェコーヒーは役に立つ強い味方になるのです。


 更に言えることは、2型糖尿病になると色々と合併症が心配になりますが、そういう合併症をデカフェコーヒーの抗酸化作用が抑えてくれます。代表的な合併症は心臓病です。これについては、デカフェコーヒーが心臓病を予防するとのメタ解析論文が出ています(詳しくは → こちら)。


 もう1つの合併症、腎臓病はどうでしょうか?実は最近までコーヒーと腎臓病の関係はよく解っていませんでした。ようやく昨年と今年に2つの論文が発表されて、レギュラーコーヒー(カフェインが入っている)を飲んでいる人が腎臓病になり難いとのデータが発表されました。しかし、デカフェコーヒーについての調査はまだありません。


 そこでレギュラーコーヒーが腎機能を保護するメカニズムを調べてみました。するとカフェインというよりも、抗酸化性転写因子であるNrf2経路による腎機能保護作用が注目されているではありませんか。もしこれが当たっていれば、デカフェコーヒーにも腎保護作用が期待できるはずです。


●コーヒーとは無関係の新薬候補バルドキソロンは、Nrf2経路で腎機能(eGFR)の低下を防ぐ(詳しくは → こちら)。


 図1をご覧ください。バルドキソロンの作用点と同じ場所に、3種のコーヒー成分が関わっています。しかし同時にこの作用にトリゴネリンが拮抗しています。そこでよく考えてみますと、トリゴネリンは浅煎コーヒーの成分で、より深く焙煎すると、逆にNrf2を刺激するN-メチルピリジンに変化します。ですから「どんなコーヒーが有効ですか?」と言えば、「深く煎ったコーヒー」という答えになるのです。




●レギュラーでもデカフェでも深く煎ったコーヒーが腎機能を保護してくれる。


 デカフェコーヒーについて強調したいことは、この1つの作用だけでも、コーヒーが掛け替えのない飲物であると言えることです。何故なら、現在実用化されている医薬品のなかに、加齢とともに確実に低下する腎機能を保護するものはないからです。日本でも始まったバルドキソロンの治験が成功すれば、第1号のNrf2刺激型の腎機能保護薬になるはずです。それと同じ作用メカニズムをもっているコーヒーは、長寿社会にとって掛け替えのない飲物なのです。


(第351話 完)


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