シリーズ『くすりになったコーヒー』
前回は、コーヒーにも含まれているニコチン酸NAで、指定難病のミトコンドリア・ミオパチーを治療したお話でした。今回は、潰瘍性大腸炎の場合です。実はこの論文が発表されたのは2017年だったのですが、ちょっとした間違いがあって、それが今月になって訂正されたので、改めて読み直して正しく紹介するというわけです。
●薬物で大腸炎を発症したマウスにNAを投与すると炎症が治った(詳しくは → こちら https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28341703/)。
まずマウスの大腸が炎症反応を起こすように、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)という薬物を投与しました。これが潰瘍性大腸炎のモデル動物です。次にこのマウスにNAを投与すると、結腸組織内でプロスタグランジンD2(PGD2)ができて、それが炎症を抑えることが解ったのです(図1)。産生するPGD2の量はNAの投与量に依存して増えるので、NA投与で増えたことが明らかです。
次に、この動物実験を、ヒトに応用して試験することになりました。
●潰瘍性大腸炎で標準治療に応答しない難治性患者26名を対象にNA酸を投与(詳しくは → 同上)
図2がこのヒト試験のプロトコル(治療計画)です。標準治療とはMDSの3剤併用のことで、内訳は抗原虫薬のメトロニダゾール、ステロイド性抗炎症薬のデキサメタゾン、およびデンプンの3つです。この処方に応答しない難治性患者にNAを追加して経腸投与したのです。NAの1日投与量は300㎎で、ビタミンとしての量の15倍超、そのためビタミン作用(NADの作用)に加えて、受容体経由の作用が現れたのです。
次に図3をご覧ください。図3中は、NA投与の直後からPGD2尿中濃度が上昇したことを示しています。大腸に起こった炎症の改善は内視鏡ではっきり認められました。更に、右側のグラフには、メイヨークリニックの重症度スコアで判定した改善度が示してあります。NAが潰瘍性大腸炎の治療に有用であったことが解ります。
さて、このヒト試験の治療効果には、NAのビタミンとしての作用が加わっていることは間違いないと思いますが、この論文は触れていません。受容体作用とビタミン作用が相乗的に働けば、NAの薬効薬理作用は想像を超えるパワーになるはずで、これを実験で確認できれば、難治疾患に対するNAの潜在的有用性が現実味を帯びてくるはずです。
最後に1つ、第287話に書いた内容にもう1度触れてみます。
図4をご覧ください。食物繊維で刺激される大腸の嫌気性菌がNAと酪酸を作っています。これらは同じ受容体GPR109Aに結合して、大腸炎と大腸癌を予防するだけでなく、ある種の乳癌の予防にも役立っているという話です。NAを作る腸内菌はコーヒーの可溶性繊維によっても刺激されるので、コーヒーを飲んだ後のNAの体内量は、コーヒーそのものに含まれている量よりも多い可能性もあるのです。
(第429話 完)
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