シリーズ『くすりになったコーヒー』



 食べ物としてのキノコの人気は何だろうか?筆者が大学院生だった頃、母校の、とある研究室で、俗名サルノコシカケと呼ばれる霊芝(中医薬のレイシ)の研究が盛んだった。何やら新発見があったようで、水溶性のβ-1,3-グルカンという多糖類が癌に効くとの話題がTVでも報道されたのだが、今では思い出話になってしまった。


 代わりに、キノコは筆者が必死にPRしているナイアシン(ニコチン酸)を含む貴重な食べ物であることと、更にごく最近になってからは、キノコを食べると腸内菌が活性化するという論文を目にするようになりました(詳しくは → こちら )。


 もう1つ更に詳しく、キノコを食べると、腸内の酪酸酸性菌が増えるとの論文もあります(詳しくは → こちら )。この酪酸は、偶然の結果なのですが、腸の上皮細胞のナイアシン受容体(GPR109A)に結合して、主に大腸免疫系のバランスを改善することで、過敏性腸疾患や大腸がんを予防しているとのことなのです。


●キノコにはナイアシンが含まれているが、食べるとナイアシン受容体に結合して、ナイアシンと同じように働く酪酸ができる。



 コーヒーとキノコはどちらもナイアシンを含んでいるだけでなく、キノコを食べると、ナイアシンと同じ受容体に結合する酪酸ができてきます。これらはどれもがナイアシン受容体GPR109Aに結合して、潰瘍性大腸炎、過敏性腸疾患、さらには大腸癌の予防に役立っているのです。


●キノコの中でナイアシンを一番多く含んでいるのはヒラタケである。



 図2に示すように、ナイアシンを含む食べ物は多くありません。普通に、健康的に食べられる量が、ビタミンとしての1日必要量を満たすと思われるものは、更に少なくなります。図2の中でそういう要求を満たしてくれるのはコーヒーとキノコだけです。コーヒーは深煎り、キノコはヒラタケという条件もついてきます。


 コーヒーは今や世界の飲料となって、特に米国での消費量は群を抜いています。ですから米国人の多くはナイアシンをコーヒーに依存しているのです。しかしそれだけでは不足であることは明らかで、次なる候補はヒラタケになるのです。


●米国農務省(USDA)食事ガイドラインにヒラタケが追加される?


 米国の食品/サプリメント会社ニュートリサイエンスは、「きのこは野菜の一部で栄養素と生理活性化合物の重要な供給源」と主張して、同省の食事ガイドラインにキノコ、特にヒラタケ(Oyster Mushroom)の追加を要望しました(図3を参照:詳しくは → こちら )。



 この論文によれば、ガイドラインにヒラタケ84gを追加すると、特にビタミンB2(リボフラビン)とナイアシン(ニコチン酸)の1日摂取量が、それぞれ18%と11〜26%上昇するというのです。


 ナイアシンに絞りますと、この11~26%の上昇という数字が何を意味しているかというと、栄養学に詳しい専門家には納得されるでしょうが、一般の人は「へ~ヒラタケってキノコなのお~」ぐらいの受け止め方しかできないと思います。サプリメント大好きな米国の食品会社が、サプリを売るのではなくて、希少なビタミンを含む食品に注目するのは何故でしょうか?アメリカではナイアシン(ニコチン酸)のサプリメントが安く売られているのにです。


 そうです、遠回りな話ですが、食品としてはコーヒーとヒラタケしかないナイアシンの大切さを、農務省に宣伝してもらおうとの企業戦略が見て取れます。全国民にナイアシンを知ってもらって、それからヒラタケより手軽に摂れるナイアシン・サプリメントの売り上げ増を狙っているのです。何ともしたたかな戦法です。


●日本には国産のナイアシンが無いし、輸入品も販売されていない。


 悲しいかなこれが日本の実状なので、高齢者はナイアシンを含む食べ物について知識を持たないと、やがて攻めてくる高齢者フレイルの恐怖から逃れることが難しいのです。


●若い人は、ナイアシンの代わりにナイアシンアミド(ニコチン酸アミド)を撮れば済む。


 ということですから、高齢者になるまでは、豚肉や牛肉などをそれなりに食べていればよいのです。



(第436話 完)



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