シリーズ『くすりになったコーヒー』


 前回まで、COVID-19の特効薬として、MPRO阻害薬を紹介しました。今回はもう1つの可能性を秘めている、NRF2活性化薬について解説します。コーヒーに含まれているNRF2活性化成分は複数あって、このシリーズでも紹介してきました。NRF2は核転写因子の1つで、その活性化は、細胞内の活性酸素種を減らし、細胞の酸化ストレスを抑え、組織の慢性炎症を予防して、がんになるリスクを下げるとともに老化を遅らせるというものでした。その結果、高齢になってからの心疾患、脳卒中、呼吸器疾患などによる死亡リスクが下がるのです。


●コーヒーは三大死因病のリスクを下げて寿命を延ばす。


 今ではよく知られた疫学データですが、国境を越えて世界のどの国でも、文化や食生活の差によらず同一であることはあまり知られていません。NRF2は、コーヒー習慣が死亡リスクを下げて寿命を延長するときに、中心的役割を担っていると言われています。薬効薬理学で言えば、NRF2には広く抗酸化性と発がん物質の解毒代謝作用を持っています。それを更に分子薬理学的に言えば、そういう薬理作用を直接示すタンパク質の遺伝子を発現させるのです。図1をご覧ください。NRF2によって発現する抗酸化性タンパク質をまとめました。



 さらに最近になって、腸内菌の1つである酪酸菌が作る酪酸が、脳細胞の中でNRF2に働いて、抗酸化性タンパク質を発現して、アルツハイマー病のリスクを下げることが発表されています(詳しくは → こちら )。


●以上のようなNRF2が、COVID-19にも関与していることが明らかになりました。


 米国ジョーンズホプキンス大学は、世界の感染状況を詳しく配信していることで有名です。女性研究者のコストバ教授もスタッフの一人です。彼女によれば、治療薬の開発で注目すべき薬物標的を、文献に則って絞り込んだそうです。その結果、ウイルスのタンパク質と最も密にクロストーク(互いに情報交換)しているヒトのタンパク質はNRF2であると気づいたのです(詳しくは → こちら )。


 図2は、この論文のキーとなる図で、ウイルスとヒトのタンパク質が互いに相互作用する中で、ヒトのNRF2に注目して、ウイルスの生活環を描いたものです。図の左上にある①から始まって、反時計回りに感染が進行し、右端の⑥で新たなウイルスが出来上がって、⑦で細胞の外に排出され、唾液に交じって空気中に拡散されるという流れです。

 


 この流れの中で、赤色の破線で囲った部分で、NRF2の活性化とウイルスとのクロストークが起こります。例えば、①と②に近い所では、NRF2によるウイルス受容体の不活化が起って、ウイルスの侵入が起こりにくくなるとのことです。


 コストバによれば、SARS-CoV-2が引き起こす炎症反応を、NRF2活性化薬のフマル酸ジメチル(DMF;商品名はテクフィデラ)または4-オクチルイタコネート(4-OI)が抑制することも解っているとのことです。その現象が起こる場所は、下方の赤枠の中で、活性化されたNRF2が遺伝子に働いて、抗酸化性に働くHO-1分子の発現を促すからとのことです。別途に、HO-1はウイルスによるサイトカインストームの発症を予防するとの研究が知られています。


●オランダ・オーフス大学のデビッド・オレニエらは、DMFまたは4-OIのSARS-CoV-2抑制効果を観察しました(詳しくは → こちら)。 


 図3はその実験装置です。台所で使うボウルの中にザルを置いたような構造で、ボウルの中にはヒトの体液に似せた細胞培養液が、ザルにはウイルスを感染させたヒト気管支上皮細胞が一層構造で並んでいます。次に、この装置に抗ウイルス試験薬としてDMFまたは4-OIの溶液を加えて、更に培養を続けて、一定時間後に、細胞内のウイルスRNAを定量分析したのです。


 実験結果を、図3の右側に示します。左側の棒グラフはDMF、右側は4-OIの抗ウイルス効果を示しています。実験データから有効投与量を予測することは出来ませんが、DMFの場合は、多発性硬化症の治療薬(商品名はテクフィデラ)となっているため、その投与量:1回240㎎で1日2回が、NRF2を活性化するための有効量と考えられます。としますと、棒グラフを比較して、4-OIの場合はもっと少ない量で効く可能性がありそうです。4-OIは、今のところ薬としての実績はありません。



●前回までのMPRO阻害薬と今回のNRF2活性化薬のまとめ。


 現在、米国で開発中のCOVID-19治療薬の本命は抗体薬カクテルと言われています(詳しくは → こちら )。この薬はそう遠くないうちに日本でも使えるようになるかも知れません。しかし、注射薬なので、身近にあるという薬ではありません。そこで筆者が考える誰でも何時でも使える便利で安全なCOVID-19治療薬とは、「MPRO阻害薬とNRF2活性化薬を合わせたカクテル」をデザインすることです。

 表1に、身の回りにある普通の食べ物に入っている候補分子をまとめました。



●カクテル候補分子はコーヒーに入っている分子が多い。


 NRF2を活性化するのに、表1には書いてない分子は、漢方薬に入っている特殊なフラボノイド類です。そういった分子は身近な食べ物、飲み物には入っていないので、無理なく自然に摂ることは出来ません。他にも似た条件のものが色々あります。ですから筆者も改めて驚いたのは、COVID-19に良いと言われる分子が、コーヒーというたった1つの飲み物の中に4つも入っていることです。ですから、コーヒーそのものが抗COVID-19のカクテルとなっている可能性があるのです。順に見直してみましょう。


  • カフェインはデカフェ以外のコーヒーなら焙煎度に無関係に入っている。
  • カフェ酸とフェルラ酸は両方とも、浅煎りに多いクロロゲン酸から体内でできる。
  • 焙煎するとトリゴネリンからできるナイアシン(ニコチン酸)は深煎りに多い。
  • 焙煎するとクロロゲン酸からできるピロカテコールも深煎りに多い。
  • カウェオールはオイルに溶けているので、ドリップ式では抽出されない。

 ということなので、より有効なカクテルを調製する方法はただ1つで、浅煎りと深煎りをブレンドすることです。


●結論として、COVID-19を予防し治療するために、家でもできる最善の方法は、筆者がデザインして、医薬経済社が販売している「希太郎ブレンド」を、毎日2~3杯飲むことです。

(第433話 完)