シリーズ『くすりになったコーヒー』
コーヒーと臓器発がんリスクの関係は、疫学メタ解析に基づいて図1のようになっています。例えば、毎日コーヒーを飲むことで、肝臓がんになるリスクは45%まで下がるということです。しかし疫学研究には、良くも悪くも交絡因子がつきもので、相対リスクが0.5以下にまで下がる肝臓がん以外では、「コーヒーがそんなに効くわけがない」との反対意見が残っています。
そんな中、今回、肝臓がんに続いて閉経後乳がんのリスク軽減に、毎日のコーヒーが確かに寄与しているとの論文が出てきました。図1の乳癌の相対リスクは0.99ですから、コーヒーの影響は良くも悪くもないということでした。それが、閉経という女性ホルモンが変化する年齢で区分けすると、ホルモンが減る閉経後の女性にとって、コーヒーが強い味方になることが解ってきました。では順に説明しましょう。
●世界の乳がん患者数は閉経前後で大違い(詳しくは → こちら )。
2018年の世界統計によると、閉経前に乳がんに罹る女性は64万5千人、閉経後の女性では144万人でした(図2の青色棒グラフ)。閉経前の女性の人口は閉経後の女性の人口より多いので、乳がんに罹る率は、高齢になるほど高いと考えられます。つまり、乳がんは高齢女性の病気とも言えるのです。しかし現実の社会では、若い女性の乳がんが話題になることが多いので、「乳がんは若い女性の病気」と思われがちなのは誤解と言うことになるのです。
では、10万人当たりの乳がん患者数で見てみましょう(図2の赤色棒グラフ)。閉経前の患者数は30.6人、閉経後では253.6人ですから、その差は実に8倍以上もあるのです。
では次に、毎日コーヒーを飲んでいる閉経後乳がん患者の死亡リスクを、コーヒーを飲んでいる人と飲まない人で比べてみます。お茶のデータも出ています。
●コーヒーを飲んでいる乳がん患者は長生きする(詳しくは → こちら )。
表1は、閉経後に乳がんになった患者が毎日コーヒーを飲んでいると、乳がんが原因で死亡するリスクと、乳がん以外の死因も含めた全死亡リスクの両方とも減るというデータです。お茶についても調べられて、この場合は乳がんによる死亡リスクに変化はないということです。その理由は解っていません。
では、乳がんを経験することなく閉経を迎えた女性の場合、毎日コーヒーを飲んでいると乳がんになるリスクが減るという論文です。
●毎日のコーヒーは閉経後女性の乳がん発症リスクを下げる(詳しくは → こちら )。
乳がん履歴がない中高年のスペイン女性10,812人を対象に、136品目の食事内容とコーヒー摂取状況のアンケート調査を行いました。その後、乳癌を発症した人数が101人になるまで追跡調査して、コーヒーの影響を調べました。解析の結果は、閉経後の女性で1日1杯以上のコーヒーを飲んでいた群は、飲んでいなかった群と比較して、乳がん発症のハザード比が0.44まで下がっていたのです。つまり、閉経後のコーヒー1杯は、乳がんの発がんリスクを44%まで下げるというのです。
ところでこの数値は、他に3編のメタ解析論文が出ているなかで、最も低い数値です。他の3編では、それぞれ相対リスクは0.88、0.90、影響なし、となっています。従って、閉経後乳がんでは、図1の肝臓がんほど明確なコーヒーの影響は無さそうですが、それなりの効果が確かにあると言えるのだそうです(詳しくは → こちら)。
この論文では、肝臓がん、乳がん以外に、食道がん、胃がん、膵臓がん、大腸がん、腎臓がん、膀胱がん、卵巣がんについても考察され、結論として、コーヒーが確実に発がんリスクを下げるのは肝臓がん、ある程度下げるのは閉経後乳がん、そしてその他の臓器がんでは「ほとんど影響なしまたはデータ不足」と見るのが適切であると書いてあります。
さらに加えて考察していることは、「発がんリスクを下げる関与成分の薬理作用」に触れて、カフェイン、クロロゲン酸、およびジテルペンを上げています。しかし関与の内容について具体的な至適はありません。筆者の考えでは、ジテルペンはオイルに溶けているので、オイルを飲まなければ、ジテルペンを飲むことはありません。また、ジテルペンにはコレステロールを増やす作用があるので、一般的には飲まない方が良いということになっています。というように、コーヒーと癌の研究にはまだまだ続きがありそうですが、
(第447話 完)