シリーズ『くすりになったコーヒー』


●「太っているとメタボリックシンドロームとか糖尿病になる」は本当か?


 1970年代、聖路加病院の日野原重明医師は、米国に倣って「成人病」を「生活習慣病」に改名することを提案しました。提案は直ぐに受け入れられて、「薬よりも生活習慣」が流行語のようになりました。しかし、それで問題が解決したわけではありません。


●生活習慣を変えるくらいなら死んだほうがましだ!


 そう言い張るのは、太っていてもどちらかと言えば健康で、生き方を変える気などほとんどない人たちです。自分は健康で何処も悪くない、元気一杯に働いているし、余暇にはスポーツも人並み以上にこなしている。病気になるはずがない。


●自分は女性だし、悪いのはリンゴ型肥満で、洋ナシ型は健康な肥満!


 この主張は、「肥満に内臓脂肪型と皮下脂肪型があって、悪いのは内臓脂肪」という疫学データに基づいています。分かり易くて科学的であるようにも言われていました。しかし、皮下脂肪は全部善玉で、内臓脂肪は全部悪玉かというと、そうではなくて、統計的数値の範囲内で成り立っているだけの話です。つまり例外はいくらでもある・・・ということなのです。リンゴ型と洋ナシ型の街のクリニックの説明がネットに沢山見つかります(例えば → こちら )。



●肥満は常に非健康とは限らない(詳しくは → こちら)。


 太った人には朗報と言える今年のサイエンス誌(2021年7月29日号)の解説です。米国人と英国人男女の脂肪組織の場所と大きさをMRIで測定して、同時に血中の炎症性サイトカイン(TNFαなど)の測定を行いました。非健康になる原因は、腹部の内臓脂肪から炎症性分子が血中に出て(図2左)、画像診断の結果では、肝臓,膵臓、筋肉の細胞に脂肪が溜まって、代謝性異常を引き起こすためとのことです。男でも女でも、痩せていても太っていても、代謝的に健康な人と非健康な人が居ることを強調しています(棒グラフ)。



 何故こういうことが起こるのかという説明の1つは、「何処についている脂肪細胞でも若くて小さな細胞は悪玉ではない」ということです。内臓脂肪の細胞でも若い細胞は炎症性分子を放出することはありません。加齢に伴って脂肪細胞が大きく育つと、悪玉化するということなのです。


 図3は、培養3T3-L1細胞が放出する炎症性サイトカインTNFαを60日間測定した実験です(詳しくは → こちら)。培養日数とともに、細胞内の油滴(赤●)が増えて、TNFα分泌量も増えていることが分かります。



 だから毎日コーヒーを飲んでいれば、カフェインやクロロゲン酸の抗炎症性作用によって、脂肪組織からの炎症性サイトカインの放出が減って、肝臓病、糖尿病、心臓病になるリスクが減る。サイエンス誌の解説には書いてありませんが、コーヒーには肥満者の体重を減らす効果の他に、慢性炎症を抑制する効果があるのです(詳しくは → こちら)。


●今回のパンデミックでも、肥満度BMIが大きい人ほど、例え子供でも、重症化リスクが高いことは、脂肪組織からのサイトカイン分泌が、サイトカインストームの病態を作ることと大いに関係がありそうです。

(第451話 完)