シリーズ『くすりになったコーヒー』


 新型コロナ感染症(COVID-19)の後遺症(Long COVID)に悩む人が増えています。長引く症状が全身に及び、日常生活に支障を及ぼすことも多々あるとのことです。TVでも毎日どこかの局が話題にしています。そんな後遺症がどんなものなのか、症状を表にまとめてみました。先ずは左側の赤字を見てください。これは筆者が文献その他から集めて整理したものです。



 後遺症の症状は、基本的に感染症そのものの症状と似ています。やや古いですが、昨年イタリアでの調査結果が米国医師会雑誌(JAMA 詳しくは → こちら)に出ているので紹介します。図2左の棒グラフはJAMA掲載のデータです。漫画の部分はこの論文を引用したYahooニュースからの引用です(詳しくは → こちら)。



 感染症と後遺症の症状の種類は基本的に同じですが、発症頻度に大きな差が見られます。漫画に描かれた4つの症状は後遺症の主症状ですが、感染症でも高い頻度で発症するようです。いずれもかなりきつい症状で、例えば「だるさ」は倦怠感のことで、仕事が手につかない、起き上がれないといったようなもので、会社も学校も休む他ないというのです。


 後遺症に根本的な治療法はなく、症状に合わせて対症療法薬を飲むしかないとのことです。そんな中、これらの症状のほとんどすべてが、「ビタミンB12欠乏症」の症状と極めてよく似ているという論文が発表されました。もしこれが当たっていれば、VB12を服用すれば何がしかの効果が表れるはずなので朗報です。しかし、発表された複数の論文に臨床試験の成績は書かれていません。


 今度は表の右側を見てください。VB12欠乏症の症状をまとめたものです。同類の症状を1つにまとめた上で、右と左を突き合わせると、舌炎以外の全てが対応していることが分かります。今回のパンデミックが始まる前の2016年に、小児から高齢者まで、VB12欠乏症についての確定診断の実施案が提案されています(詳しくは → こちら)。VOVID-19の後遺症がVB12欠乏によるものか否か、似ているのは単に偶然の一致なのか、早急に明らかにする必要がありそうです。



●VB12欠乏症の分子生理学

 VB12(別名:シアノコバラミン)はメチオニン合成酵素の補酵素として働く重要分子です。日本にどのくらいのVB12欠乏症の人がいるか、信頼できるデータはありません。海外では、ドイツの高齢男性の10%、同女性の26%、インドでは人口の75%がVB12欠乏で、特に菜食主義者に多いとのことです。厚労省は2020年に海外データを引用して、医療関係者向けのVB12情報を発信しました(詳しくは → こちら)。B12を含む食品の写真など、一般の人でも十分読める内容になっていますから、一度訪問をお勧めします。


では図3を参照してください。この図はVB12が真ん中に来るように描かれています。ホモシステインにB12が作用してできるメチオニンは、実はメチオニンサイクルと呼ばれる代謝回路でリサイクルされるアミノ酸です。基本的に体が必要とするメチオニンは食べ物に由来する必須アミノ酸です。メチオニンの補給は、第1に食事ですが、メチオニンサイクル内ではB12に依存して再利用されているのです。



 COVID-19で不足する必須栄養素は、VB12の他に、亜鉛とVDがあるとの論文が出ています。これらの血中濃度はどれもが死亡例で低くなっていて、酸素吸入が必要となった患者では特にVDが低値で、退院まで長い期間を要したのはVB12が低値の患者でした。3つのうちVDはパンデミック発生の初期から治療に使われてきていますが、亜鉛とVB12の積極的な使用は一般的ではありません。ましてや後遺症の治療に使われることはありません(詳しくは → こちら)。


 COVID-19ではVB12以外に葉酸の不足が強調されています。図3に描いてあるように、VB12はメチオニンサイクルと葉酸サイクルの交差点に位置していますから、B12の欠乏は直接的に葉酸代謝に影響を及ぼします(詳しくは → こちら)。


 もう1つはごく最近に発表された論文で、図3のメチオニンサイクルと共役する「メチル化」に注目しています。VB12の欠乏がメチル基供与体であるSAMの不足を招くので、体内至る所で重要分子のメチル化に支障をきたすとの指摘です。例えば、血圧を高めるホルモンのエピネフリンの場合、メチル化が起こらないと、血圧が高いまま維持されることとなり、それが後遺症の悪化につながる可能性があります。論文著者が強調するのは、後遺症の治療にVB12を積極的に使用することで、そうすれば後遺症は回復するというのです(詳しくは → こちら)。



●VB12を多く含む食品

 最後に、VB12を含む食品とは、魚介類と肉なので、菜食が主になると不足するリスクが高まります。普通に健康的と言われている食事をしていれば、不足することはほとんどないと言って良い栄養素です。しかし、COVID-19の後遺症の場合には、食欲が落ちてきますから、気をつけないとかなりな高率で不足すると思われます。



●もし後遺症になったらビタミンB剤の服用を考える。

商品は色々ありますが、筆者が推奨するのは唯一ニコチン酸を含む総合B剤の「ノイビタZE(第一三共)」です。いざという時にはお試しください。

(第454話 完)