シリーズ『くすりになったコーヒー』


●2014年、エボラ出血熱に抗インフルエンザウイルス薬「ファビピラビル」が使われた(詳しくは → こちら)。



 ファビピラビルは、抗結核薬ピラジナミドをモデルとして開発されましたが、そのピラジナミドの化学構造は焙煎コーヒーのピラジン酸とほぼ同じ。ただしピラジン酸には抗ウイルス作用はありません。


●コーヒーポリフェノールの1つカフェ酸は、マダニが媒介する重症熱性血小板減少症候群(SFTS)ウイルスに効く(詳しくは → こちら)。


 つい最近の論文です。SFTSとは、死亡率30%に達する重症感染症で、マダニが媒介する新型感染症として2012年に中国で発見されました。有効な治療薬はまだ見つかっていないので、国立感染症研究所も大いに注目して監視を強化していました(詳しくは → こちら)。


 一方、ファビピラビル製造元の富山化学工業は、去る3月、ファビピラビルのSFTS治験をスタートしました。柳の下に2匹目のドジョウを狙った治験ですが、既に市販薬なので第三相試験から始まります。患者エントリーはGWから夏場に向けて本格化するはずなので、もし噛まれたらこの治験を思い出してエントリーお忘れなく(詳しくは → こちら)。


 もう1つ、軽度なSFTSに効く薬はリバビリンで、数年前までC型肝炎のウイルス除去薬として使われていました。興味あることに、コーヒーとの関係をNIHグループが研究して、普段からコーヒーを飲んでいる患者でのウイルス除去速度は、コーヒーを飲まない人の2倍速くなると論文に書いています(第110話を参照)。国立感染症研究所はリバビリンがSFTSにも効くことを確認していますが、重症患者には無効のため、ファビピラビルに期待しています(詳しくは → こちら)。


 では、話をコーヒーに絞ります。コーヒーにはカフェ酸以外にも抗ウイルス作用を示す成分が3つ含まれています。これをまとめて図に描きました(図を参照)。



 筆者の共同研究者だった小山教授は、和歌山医大の微生物学教授でした。その小山教授の話によりますと、「コーヒー成分の抗ウイルス作用に相乗効果が出るとしても、コーヒーそのものの効果は強過ぎる」とのことです。ギ酸、NMP、カフェインのどれを取って見ても、コーヒーそのものの作用は100倍以上もあるのです。相乗作用ならせいぜい10倍くらいが常識の範囲です。カフェ酸の登場でその疑問が解けそうです。


●カフェ酸の作用が加われば、コーヒーの効き目が薬理学的に妥当な範囲に入ってくる。


 これはまだ仮説の話でありますが、大いに現実味をもっている話です。コーヒーの抗ウイルス作用スペクトルは広範囲で、DNAとRNAの両ウイルスに跨っていますから、ギ酸は兎も角として、「カフェ酸+NMP+カフェイン」の3成分の最適混合比が解れば、更に強力な抗ウイルスコーヒーが実現する可能性がありそうです。


 当面は、コーヒーパワーも借りながら北上するマダニウイルスへの抵抗力を養いたいと思います。


(第347話 完)

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