シリーズ『くすりになったコーヒー』
1月27日のスポーツ報知電子版が、女優中谷美紀さんのインスタグラムを引用して近況を紹介しています(詳しくは → こちら )。
●中谷美紀さんがビタミンB群とナイアシン(ニコチン酸)を絶賛している。
「12年前にベジタリアンをやめて医師の処方によりビタミンB群とナイアシンをしっかり摂取するようになってから、悪夢を全く見なくなりました。安眠、快眠にはビタミンB群とナイアシンをぜひ」。
実はこの記事を教えてくれたのは筆者のFacebook友達で、「今日のコーヒーワールドニュース」を見てのことと思います。筆者の3年前の投稿に「ニコチン酸を飲むと睡眠物質プロスタグランジンD2(PGD2)が増える」と書いたことがありました。最近のビタミンB3欠乏症の特徴として、アルコール多飲(詳しくは → こちら )と不眠(詳しくは → こちら)が指摘されていたからです。
●中谷美紀さんの主治医の診断は正しかった。
もし他のお医者さんに掛かっていたら、総合ビタミンB剤は勧められても、ニコチン酸を飲むことはなかったでしょうから、別の経過を辿っていたかも知れません。かつて食糧不足の時代にビタミン剤が人々の命を救ってくれました。その後、経済先進国の人々の暮らしが豊かになると、ビタミン欠乏症は影を潜めて、医学教育からも消えてなくなりました。実地臨床では、患者の減少が若手医師の経験不足に繋がりました。原因不明の疲れ、うつ状態、不眠、意欲低下等々が、ビタミン(特にB群)欠乏症として美食の裏で広がっているのです。VB欠乏は、中谷美紀さんのような菜食主義の人にとっては、特にリスクの高い生活習慣病なのです。不幸中の幸いは、主治医の正確な診断を受けたことです。
●前世紀のペラグラ(VB3欠乏症)と今のペラグラは違う!
この事実がビタミン学会で話題になったのはつい最近のことです。トヨタ記念病院の稲垣医師が、2018年7月に学会の研究会で話題提供したのです(前出の文献を参照)。中谷さんが薬を飲み始めたのはもっと前のことでしょうから、主治医は余程詳しく文献に目を通していた勉強家と思われます。
大方の医師の診断は、VB欠乏を指摘しても、ナイアシン(ニコチン酸)に気づく医師はほとんどいないと思われます。しかも、市販の総合VB剤にニコチン酸が入っている商品はたった1つしかありません(文末を参照)。その他の全てには、B3が入っているとしても、それはニコチン酸アミドであってニコチン酸ではありません。中谷さんの場合は、菜食主義でしたから、肉食はほぼ0状態で、従ってニコチン酸アミドも食べていなかったはずです。運が悪かったと言えばそれまでですが、ニコチン酸は植物性のビタミンで、その必要量が入っている食べ物は深く煎ったコーヒーだけと言ってよい状況なのです。コーヒーより緑茶を好む中谷さんは、ニコチン酸摂取量がほぼ0に近い状態だったと思われます。
●ニコチン酸は睡眠を誘導するビタミンである(詳しくは → こちら)。
図1は、ニコチン酸が結合する受容体GPR109Aが全身の至る所にあって、そこにニコチン酸が結合すると様々な生理作用が起こることを示しています。ニコチン酸の他にも、腸内菌が作る酪酸や、焙煎したコーヒーの香成分代謝物が、ニコチン酸と同じようにGPR109Aのアゴニスト(刺激物質)であることが解っています。そしてその刺激を受けて、細胞膜の長鎖脂肪酸の1つであるアラキドン酸から、数段階の代謝反応を経てプロスタグランジンD2(PGD2)が出来てくるのです。
次にPGD2は受容体PD1に結合して、数々の生理作用を発現します。睡眠制御から時計回りに脳卒中予防まで、実に多彩と言う以外ありません。疫学研究によれば、それらの作用のうちコーヒーマークをつけた項目は、毎日コーヒーを飲んでいる人に見られる効き目でもあることが解っています。
●睡眠制御に注目してみると
ニコチン酸欠乏症ペラグラの症状に不眠があることは広く知られている訳ではありません。ネット記事を含めた解説書も教科書も、不眠または睡眠障害を書いた記事は多くありません。ごく稀にしっかり書いた記事が見つかります(詳しくは → こちら )。
では、コーヒーを飲むと増えるPGD2が不眠を解消して、睡眠の質を向上するメカニズムを図2に示します。この変化を起こすために必要なニコチン酸の量は、臨床的に1日100㎎程度からと言われていますが、正確な数字は曖昧です。今言えることは「ビタミンとしての必要量より多いだろう」という推測だけです。だとすると1日15㎎以上と言うことになるので、深煎りコーヒー3杯でギリギリ達成できる数値です。おまけにコーヒーにはカフェインが入っているので、寝る前に飲むと睡眠妨害になってしまいます。
図2をご覧ください。カフェインなしの状態でニコチン酸を飲めば、脳外で産生するPGD2が脳脊髄液を通って睡眠中枢に到達し、腹側表面の受容体PD1を刺激します(図1も参照)。するとアデノシン濃度が高まって、アデノシンA2A受容体が刺激され、その結果、視索前核神経VLPOが睡眠を誘導するという経路です。大事なことは、ここでVLPOのもう1つの神経回路が起乳頭核TMN神経を抑制するので、それが覚醒を抑えて睡眠の刺激を高めるのです。VLPOとTMNの+と-の作用は、Flip-Flopメカニズムと呼ばれ、天秤のバランスを保つように働いて、睡眠の質が向上すると言われています。ベンゾジアゼピン系睡眠薬の作用もここに焦点を当てて効果を発揮しています(詳しくは → こちら )。
●日常、VBsとニコチン酸を補給する最も簡単で有効な方法はノイビタZEを服用すること。
コーヒーにはニコチン酸が含まれていますが、その他のVB群は入っていません。ニコチン酸欠乏が起こる多くの場合にVBs全般の不足が伴います。その為、ペラグラ様の症状が認められるときに有効な治療法は、ニコチン酸を配合している日本で唯一の総合VB剤であるノイビタZE(第一三共)を飲むことです。
自覚できる次の症状は現代版ペラグラに見られるものです。特にベジタリアンとアルコールを多く飲む人は要注意です(詳しくは → こちら )。
1.皮膚炎
2.下痢
3.認知症(記憶障害その他)
4.不安感
5.抑うつ状態
6.せん妄・幻覚
7.疲労感
8.意欲低下
9.不眠
このうち3つ~4つの項目が当てはまればビタミンB3欠乏のリスクが高いと言えそうです。
●健康な日常生活には、身体によいと言われる食べ物を腹八分目に食べて、食後の健康珈琲「希太郎ブレンド(医薬経済社)」と、ちょっと疲れるなと思ったら「ノイビタZE(第一三共)」を飲むことです。
【注意】ノイビタZEはマツモトキヨシなどでも売っていますが、ネットで購入が随分とお得です。
最後に、中谷美紀さんのインスタグラムが切っ掛けになって、「必須栄養素が欠乏する病気なんて昔の話」と思わずに、食と栄養の基本に気配りする習慣が広く世の中に戻ってくることを期待したいと思います。
(第464話 完)