シリーズ『くすりになったコーヒー』


 アルツハイマー病(AD)が世界的に社会問題化しています。何とか手を打たないと次世代はとんでもない不幸に見舞われてしまいます。筆者も以前ADの祖母を見送ったことがありましたが、それはそれは経験しないと理解困難な非日常が続くのです。


 各国政府も対策を講じようとしていますが、最大の不幸は「薬がないし出来そうにもない」ことです。ですから対策としては、医者も病院も抜きで実現できる方法でなければ効果を期待できません。反面、ここぞとばかりに儲け本位のサプリメントや不可思議な道具が出回ります。既にあちこちに兆しが見えているようです。


 そこで今回は、患者や家族が「藁をもつかむ」とばっかりに、紛らわしい嘘に騙されないコーヒーのお話です。信じて頂けること前提ですけどね。


●コーヒーも怪しいんじゃあないかって?そう思う人、とくとご覧ください。



 図に描いた化学構造式は、れっきとしたコーヒー成分ですが、誰かが何処かでこれを使って、細胞や動物相手に実験して、「もしこれをヒトに飲ませればアルツハイマー病に効くかも知れない」と、論文に書いてPRしている成分です。成分自体に何の責任もありませんが、実験した人の胸の内は「あわよくば儲けたいなあ」の気持ちが疼いているのが見え見えでも、決してヒトの実験で証明されたわけではありません。


●ネットで検索すると、1〜6のどの物質も「アルツハイマー病または認知症の改善に有効」との記事がすぐ見つかる。


 ならばコーヒーを飲めばよいではないか・・・とも思えるのです。コーヒーにはこの図の成分が全部入っていますから、1つ1つを個別に飲むよりずっと確かな効き目を期待できるのではないでしょうか。ただし、疫学研究の結果では、コーヒー習慣とアルツハイマー病リスクの関係は今一つはっきりしない状況で、賛否両論が混じっています。実に始末が悪い話なのです。


 そこで、もしコーヒーに何某かの効果があるならば、早い時期から飲み始めることが肝心でしょう。何故なら、飲み過ぎさえしなければコーヒーはずっと飲み続けても安全な飲みものだからです。この「早くからみ始める」という考えは、製薬会社が狙っているアルツハイマー病新薬の目標にもなっているコンセプトなのです。


●軽度認知障害(MCI)の人がコーヒーを飲めば、認知症発症を遅らせることができるか?


 これと同じ狙いで新薬の治験が実施されましたが、世界の製薬会社から失敗宣言が出始めています。もしコーヒーがそういった新薬候補と同じレベルの薬理作用物質ならば、効果は期待できないでしょう。ただ、もしかしたら期待できるという、そういう理由があるのです。


●コーヒーは、多くの薬理作用物質の集合体で、医薬品のような単一物質ではない。


 従ってコーヒーには複数の薬理作用物質の相互間で薬理学的な相加・相乗作用が発揮されるはずですし、実際に例えばカフェインとクロロゲン酸が糖尿病を予防する相乗効果は実験で証明されています(詳しくは → こちら)。


 もしこれ以外にも相乗作用の組み合わせが実証されれば、より効果的なコーヒーの淹れ方が解って来るに違いありません。すでにそういう組み合わせを示唆する研究が行われていますから、論文発表も間近なことと思われます。大いに期待しましょう。


(第344話 完)


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