シリーズ『くすりになったコーヒー』


●毎日コーヒーを飲む人は2型糖尿病になり難い。


 これはほぼ確立された疫学観察研究の成果です。2型というのは食べ過ぎと運動不足が原因の糖尿病で、今や1千万人の患者がいるほどに蔓延したとのことです。では、成人する前に発症する1型糖尿病の場合はどうでしょうか?実はこれまでコーヒーと関係するデータはありませんでした。


 1型糖尿病は生まれつきインスリンができないという遺伝的障害をもって生まれた人に起こります。ですから治療法は「インスリンを補給すること」であって、それさえ守れば普通の人と同じように生活できるのです。そんな1型糖尿病の人がコーヒーを飲んだらどんな運命をたどるでしょうか?初のデータが北欧フィンランドから出てきました。


●フィンランド健康局に登録している1040名を調査した結果、1型糖尿病患者は☕を控えめにした方が良い(詳しくは → こちら)。


 1型糖尿病患者が毎日コーヒーを飲んでいると、糖尿病の症状や各種検査値が悪くなるというのです。1日数杯のコーヒー群は、ほとんど飲まない群に比べて、メタボリック症候(肥満、高血圧、低HDLコレステロール、高中性脂肪、高血糖のうち3つ以上)の発症率が高くなってしまいます。そのくせ腎機能を示すeGFR(推定糸球体ろ過量)だけは何故か良好な数値を示したのです。普通に健康な人がコーヒーを飲んでも、短期間のうちにeGFRが良くなることはありません。



 1型と2型の糖尿病はどうしてこんなに違うのでしょうか?


●1型はインスリン注射を打たない限り(いくらコーヒーを飲んでも)インスリン欠乏だが、2型はコーヒーでインスリンが出るようになる。


 インスリンが不足している予備軍の人が、インスリンの産生を促すコーヒーを飲んで病気を予防する。これが2型糖尿病にコーヒーが効くメカニズム(の1つ)です。ですから、インスリンを作る遺伝子を持たない人がいくらコーヒーを飲んでも効くはずはないのです。


 では、1型糖尿病の人がコーヒーを飲むとメタボリック症候が出やすくなるのに対して、eGFRはむしろ改善するのは何故でしょうか?その最善と思われる答えは、「腎ろ過機能を示すeGFRはインスリンと無関係なので抗酸化作用が働いた」ではないでしょうか。


●1型と2型の糖尿病では、コーヒーに対する相性が完全に逆になっている。


 日本人の場合、1型糖尿病患者数は多くありませんから、疫学調査の対象になることはありませんでした。北欧では、特にフィンランドでは、1型糖尿病患者の発症率が世界で1-2番を争っていますから、コーヒー疫学調査の対象になってきたのです(グラフを参照)。


 今後の研究の方向は、「1型患者でも飲めるコーヒーとはどんなコーヒーか?」になるのではないでしょうか。


(第343話 完)


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