シリーズ『くすりになったコーヒー』


 毎日コーヒーを飲まずには居られない人が居るかと思うと、一度も飲んだことのない人もいます。一度飲んでみたが、気持ちが悪くなったので、以後飲んでいない人は結構いらっしゃいます。実に色々です。


 筆者が学生時代、「アルコールに弱い人はアルコール代謝酵素がない人」というニュースが流れて、コンパの度に話題になりました。カフェインについて、代謝酵素が話題になるのはもっとずっと後のことです。それでもカフェイン代謝酵素はかなり有名になって、この遺伝子をもっていない人がコーヒーを飲むと「心臓がどきどきする」とか耳にするようになりました。


●コーヒーの好き嫌いは遺伝子次第かも・・・。


 人類がヒトゲノム解読に初めて成功したのは今世紀のはじめでした。それから20年近くたった今、コーヒーが大好きで、コーヒーの健康効果の恩恵を受けている人の遺伝子が明らかになってきたのです。図をご覧ください(詳しくは → こちら)。



●コーヒーを好きになる遺伝子は12番染色体長腕にある(Sci Rep 2018,1月号を参照)。


 以前から単発的に報告されてきた「コーヒー好き遺伝子」が、まとめて解析されたのです。想定外とも言える「12番染色体に集中」に吃驚仰天してしまいました。1つの細胞のなかの染色体を引き延ばせば、お父さんとお母さんから貰った遺伝子の全長は約2メートル。そのほんの1部の「12q24」の長さは1ミリにも足りません。でもそのなかに、コーヒーが好きになって、かつ癌と生活習慣病を予防する数十個もの遺伝子が集中しているのです。俄かには信じたくない「食と遺伝子の深〜い関係」としか言いようがないのです。


 ではここで、染色体(22対44本)の位置を示すアルファベットと数字の解説です。「12q24」とは・・・最初の数字は染色体の番号で大きい対(父と母の対)から順に番号づけ;pは短腕、qは長腕;染色して目に見える帯に、セントロメアからテロメアに向かって順番をつけて位置を示します。さらに細かく位置づけすると数字がだんだん増えてきます。


 では、コーヒーが好きになる遺伝子の働きについて概略をまとめてみましょう。


1.カフェイン代謝酵素・・・飲んだカフェインが早く排泄されるので、次が欲しくなる。
2.Toll様受容体(TLR)・・・免疫力を高めるが、高めすぎると炎症を起こす。
3.ALDH2・・・アルコール代謝酵素で加齢酸化ストレスをミトコンドリアで除去している。
4.MAPKAPK5・・・これが減るとアルツハイマー病のリスクが高まる。
5.ACAD10・・・変異が起こると2型糖尿病になる。
6.BRAP・・・心筋梗塞と関係している。
7.MIYL2・・・心筋炎と関係している。
8.CUX2・・・神経の発達と関係している。
9.OAS2・・・ウイルス感染に対応する免疫系と関係している。
10.DTX1・・・ノッチシグナルを制御して、特に神経発生と動脈内皮の維持に不可欠。
11.その他


 大略以上のような内容ですが、コーヒーはこれらの遺伝子に作用して、癌と生活習慣病の予防に寄与していると考えられるのです。たった1つの飲料がこれだけ多くの遺伝子と関係し、かつそれらの遺伝子が12番染色体の限られた部位に局在化している・・・こんなことが現実にあり得る話なのです。


 コーヒーカップの底は見えますが、コーヒーの薬理学は無限の深みに埋まっているのです。


(第342話 完)


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