焙煎の達人と呼ばれる大坊勝次さんから聞いた話です。


 「焙煎が深まると突然のように甘い豆ができて、直ぐにまた苦くなるので、そのタイミングを逃さないように焼いています」。


 焙煎中の豆の中で一体何が起こっているのか、筆者にとって長いこと謎だった答えが、最近になって半分解けた気になりました。切っ掛けは愛知学院大薬学部の安藤基純先生のビタミンB3(ニコチン酸とニコチナミド)の正確な測定です。そのデータを見たとき、ふと「そうか」と気づいたのです。「甘くなるのではなくて、苦みが消える」ということです。ヒントは4つあって、5つ目のまとめが一応の答えになると思っています。


1.焙煎が進むと苦味成分が増えてくる(一般的知識;図1の白い線)。

2.同じく焙煎が進むとビタミンB3(VB3:ニコチン酸とニコチナミド)が増えてくる(図1の黄色の線)。

3.焙煎がさらに進むとVB3は減少する(ニコチナミドは急速に、ニコチン酸はややゆっくりと)。

4.どちらのビタミンも実感する苦味を強めるが、ビタミンが減ると苦味も弱まる(図1の赤い線;詳しくは → こちら)。

5.まとめると、「苦味が弱まる」という味の変化を「甘くなる」と錯覚するのではないだろうか?


 ただしこれは推論であって実験で証明された訳ではありません。証明するには「焙煎中のVB3の変化と味の変化をカッピングテストで正確に追跡」しなければなりません。



 さて、実験のことは先送りして、ここでは青山にあった大坊勝次さんの珈琲店とそこで淹れられたネルドリップの甘味について、ネットの記事を引用して紹介しましょう(詳しくは → こちら)。コーヒー通にとって大坊勝次さんのコーヒーは特別で、中でも大坊珈琲店の再開を熱望している繁田武之さんは、日本ネルドリップ珈琲普及協会の店で奮闘中です(詳しくは → こちら)。それでは名店の味を想像しながら記事をお読みください。(→詳しくはこちらニューヨークタイムズスタイルマガジン)。