シリーズ『くすりになったコーヒー』


●「コーヒーのAGEs(AGEの複数形)ってなんですか?毒なんですか?」


 某雑誌社のライターさんからこんな質問を受けました。最近のTV番組で専門家が話していたそうですが、よく解らなかったようです。それはそのはず、AGEsはまだ研究途上ですし、そのくせ複雑な混合物で、コーヒーに入っているのかいないのか、専門家ですらよく解っていないのです。順を追って解説しましょう。


 コーヒー豆の焙煎では有名なメイラード反応が起こります。その結果、独特の香りとともに、透明に湯に溶けだすコーヒー色が生まれます。香り成分と色素、どちらもコーヒーの魅力を際立たせる2大成分です。メイラード反応の原料は糖とアミノ酸ですから、ほぼすべての食材に含まれています。ですから加熱調理では必ず見られるごくごく身近な化学反応ですし、しかも食欲をそそる味と香りをもたらす食のアートでもあるのです。


●メイラード反応とよく似た反応が身体のなかでも起こっている。


 加熱調理よりずっと低温でゆっくり進む糖化反応・・・調理とは全く異なる側面が見られます。そのためメイラード反応と区別して糖化反応と呼ぶのです。糖化反応は血糖値の高い人ほど速く進行するので、治療不完全な糖尿病患者や糖尿病予備軍、あるいは食後高血糖で検査値HbA1cが高値の人ほど起こりやすい反応です。


 では調理で見られるメイラード反応と体内の糖化反応を比べてみましょう。


●調理中のメイラード反応では、糖と糖からできるフルフラールがアミノ酸と反応する(表を参照)。


 調理に使うショ糖の一部はグルコースと果糖に分解し、次いでアミノ酸と結合してシッフの塩基に変わります。シッフの塩基はメイラード反応と呼ばれる複雑な熱分解を起こして、香と色の混合物(MRPs)に変わります。これと並んで起こるカラメル反応では、カラメルの香りを発するフルフラールができてきます。その主成分は5-HMFで、直ぐにアミノ酸と結合し、シッフの塩基を経てメイラード反応が進みます。



●体内で起こる糖化反応では、血糖グルコースが肝臓で代謝され、調理ではありえない複数の代謝産物が生じ、これらがアミノ酸と結合してやがてAGEsができてくる。


 糖化反応の形式はメイラード反応とほぼ同じです。違いは原料にあります。メイラード反応の原料は糖とフルフラールですが、糖化反応ではさらにグルコースの肝代謝物が加わります。この違いを区別するために「糖化反応:glycation」と呼び、最終的に尿に排泄される物質を糖化最終産物AGEs(Advanced Glycation End-products)と呼ぶのです。


 そのAGEsのなかに有毒物質が見つかった。


●グリセルアルデヒドを経由してできるAGEsのことを、TAGEs(有毒糖化最終産物)と呼ぶ。


 以前から「焼け焦げは身体に良くない」と言われますが、秋刀魚の焼け焦げによる胃癌リスクは後に否定されました。コーヒーの場合はどうでしょうか?筆者はこれも否定されるはずだと思っています。何故なら有毒なTAGEsは体内だけでできるAGEsだからです。生活習慣病の病因論としてTAGEs体内説を主張しているのは金沢医科大の竹内正義教授で、最近は海外の研究者にも知られるようになりました(詳しくは → こちら)。


●TAGEsと結合する受容体(RAGE)がある。


体内でできたTAGEsの毒性はRAGEに結合することで発現すると竹内教授は論文に書いています。RAGEには血液に溶けて全身に循環するタイプがあって、「これにTAGEsが結合すると種々の生活習慣病を発症する要因になる」というのです(詳しくは → こちら)。


 血糖値の高い人、HbA1cが高値の人、即ち過剰なグリセルアルデヒドを産生しやすい人では、TAGEsが蓄積して可溶性RAGEと結合し、細胞障害をきたす可能性が高い。竹内教授はそんな仮説に基づいて各種の生活習慣病の病因としてのTAGEsの論文を精力的に書き続けているのです。


●TAGEsを作らないための秘策は、糖分を多く摂らない、食後高血糖を予防する。


 よく耳にする食の基本がそのままTAGEs減少の決め手です。病気になったことを悔やまずには居られなくても、病気が悪化しないような努力は必ず報われるものです。


(第341話 完)


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