シリーズ『くすりになったコーヒー』


 一昔前までの西洋医学によれば、「人体は臓器の集まりだから、個々の臓器が健康ならば人体もまた健康である」ということでした。そして脳が中心になって、複雑な神経系を介して臓器を支配しているとも考えられていました。


 病気になった人に治療を施し、または病人が医者の治療を受けるときには、「人体は臓器の集まりだから、悪くなった臓器を探し当てて治療すれば病気を治せる」との考えで診断に力を入れてきたのです。血液検査や病理検査、内視鏡、造影機器・・・どれも診断のための道具です。
西洋医学と並び称される漢方医学では、「人体には五臓六腑が連携しているから、全体のバランスを整えるように治療すれば病気を治せる」となっています。診断は触診と問診であり、機器の使用は滅多にありません。身体の何処にバランスの崩れがあるのか、漢方薬への反応も見ながら、手間暇かけて診断と治療を並行して進めて行きます。


●現代医学は対症療法、漢方医学は体質療法とも言われました。


しかし、その状況に変化が出始めました。現代医学と漢方医学は異なる医学ではないかも知れない、そうではなくて、互いに理解し合うための新たな状況が見えてきたのではないか。その状況とは、iPS細胞を発見した山中伸也博士と知的芸人タモリの名コンビが、昨年来のNHKテレビ「NHKスペシャル・人体」で熱心に語っています。キーワードは「人体は巨大なネットワーク」です(図を参照)。



 巨大ネットワークを構成する1つ1つのサブネットワークは、2つの臓器をつなぐ神経または血管です。神経の情報伝達は電気、血液の情報伝達はタンパク質などの情報伝達物質が賄っています。具体的に例を挙げてみましょう。


 まず1つ目は、血圧が高いときに心臓から出てくるANP(心房性ナトリウム利尿ペプチド)です。これが腎臓にたどり着くと「尿を出しなさい」という情報を伝えます。すると腎臓は排泄量を増して血圧を下げる働きをするのです。これは心と腎を結ぶネットワークと言えるものですが、脳は一切関与していません。


 2つ目は、満腹ホルモンと呼ばれるレプチンです。お腹が空いた気持ちが食事で和らいで、やがて腹八分目を過ぎるころから、皮下組織や腹部にある脂肪組織からレプチンが血中に出てきます。そして脳に達すると「もう満腹ですか食事は終わりです」という情報を伝えます。それを受けた脳は食欲中枢を抑制して食事は終了というわけです。脂肪組織という脳から遠く離れたところに情報源があるなどとは、ちょっと前の医学ではとても考えられない神秘でした。


 まだまだ他にも、臓器と臓器をつなぐサブネットワークが次々に見つかっています。そして、それらの方向と働きをじっくり見定めれば、病気の治療方針が正しく決められるものと、医学界には大きな期待が生まれているのです。もう1つ大事なことは、巨大ネットワークの説明と理解は現代科学・医学の言葉で表現されるので、東洋医学の以心伝心の学問よりも速やかに人々に受け入れられると思われますし、東洋医学の経験則を応用すれば、更なるレベルアップを測れるかもしれません。


 最後に筆者は、巨大ネットワークのなかの何処かに、好きなコーヒーの立ち位置を求めて、医食同源文化の進化に努めようと思います。今のところ最も居心地の良い場所は、ど真ん中だと思われます(図を参照)。


(第340話 完)


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