シリーズ『くすりになったコーヒー』


 第337話に「カフェインの血中濃度がパーキンソン病(PD)のマーカーになる」という順天堂大医学部の論文を紹介しました。読んでみますと、確かにカフェインと書いてあって、コーヒー、お茶、その他に由来する全てのカフェインの総和を意味しています。化学物質としてのカフェインが病気のマーカーになるなんて、本当でしょうか?


●しかし、カフェインの臨床試験(治験)では、PD治療にカフェインは無効だった(詳しくは → こちら)。


 順天堂大病院で治療を受けているPD患者60名に1日2回、100ミリグラムずつのカフェインを飲んでもらい、他の61名にはプラセボを6−18ヶ月間飲んでもらいました。その結果は、PD患者の運動機能改善について、カフェイン群とプラセボ群は同等で、カフェインに効果は見られなかったのです。


 前世紀から世界各地で実施されてきた疫学研究によれば、コーヒーを毎日飲んでいる群ではPD発症リスクが低いか、または発症年齢が高くなるとされてきました。この結果と、カフェイン臨床試験の結果は矛盾しているように思えますが、「コーヒーとカフェインは違う」という当たり前の事実から考えれば、カフェイン単独の効果はプラセボと同程度と言うことなのです。


 では、カフェインは全く無力なのかと言いますと、そうではありません。ハーバード公衆衛生大が発表した論文によれば、カフェイン入りコーヒーがPDリスクを下げるのに対して、デカフェタイプのコーヒーに効果は見られなかったのです。この疫学研究が正しいとすれば、カフェインは効果を発揮しているはずです(詳しくは → こちら)。


●コーヒーは「カフェイン+アルファ」によってPD予防効果を発揮している。


 薬理学で判断する限り、これ以外の答はありません。問題はアルファの中身です。コーヒー・ポリフェノールのクロロゲン酸だろうと考えるのが普通ですが、それ以外にもいくつかの指摘があります。以下、順に並べてみましょう。


●2016年:コーヒーの神経保護作用は、カフェインと言うよりケルセチンによる(詳しくは → こちら)。
●2015年:PD予防因子は、喫煙、コーヒー、および血中尿酸の総和であって、コーヒー本来の効果は小さいので見つけにくい(詳しくは → こちら)。
●2014年:コーヒーのPD予防効果は、腸内菌を介して発現している(詳しくは → こちら)。
●2011年:グルタミン酸受容体遺伝子GRIN2Aの多型に基づくPD予防効果の個人差は、CYP1A2による個人差より大きい(詳しくは → こちら)。


 まとめると、カフェインの+アルファとして、ケルセチン、尿酸、腸内菌、グルタミン酸があるかも知れないのですが、一体どれが本物なのか解りません。むしろ筆者自身は、喫煙とコーヒーに共通のPD予防因子を考えて、このブログの第83話(2010年12月)に書きました。


●ハルマラアルカロイドのハーマンとノルハーマンが、コーヒーとタバコの煙にも含まれていて、動物実験ではMAO阻害作用を介してPDを予防するが、臨床試験で証明されたわけではない(詳しくは → こちら)。



 以上のように、コーヒーとカフェインは別物なので、PD患者をカフェインで治療する臨床試験が失敗だったことは止むおえないことでした。今言えることはカフェインと何かが共同してPDを予防している可能性が高いということと、もう1つはPD患者がコーヒーを飲んでも、飲み過ぎない限りは安全だということです。


(第339話 完)


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