シリーズ『くすりになったコーヒー』


 毎日コーヒーを飲む習慣をもてば、パーキンソン病(PD)罹患率が平均76%まで下がります。主たる寄与成分はカフェインだと考えられています。この疫学データから「PD患者では血中カフェイン濃度が非PDの人より低い」可能性を想像できます。順天堂大医学部の研究陣もそう考えて詳しく調べました。


●疫学データを統計検定法で解析しても、実際にその通りになっているかどうか、誰もが納得する証拠はない。


 そこで順天グループは、PD患者と非PD者の血中カフェインとその代謝物の濃度を測定して、濃度とPDの関係をROC曲線(受信者動作特性曲線)を描いて解析したのです(詳しくは → こちら)。


 ROC曲線とは、何らかの検査値を使って病気の診断を行うとき、擬陽性や偽陰性の割合を減らすための技法として、近年臨床応用が増えています(詳しくは → こちら)。順天グループもここに目をつけて、コーヒー界初の応用を試みたというわけです。


●PD患者の血中カフェイン濃度は低い(順天グループの論文↑を参照)。


 理屈は抜きにして論文掲載のROC曲線をご覧ください(図1)。




 図Aはカフェイン濃度だけを解析対象とした場合、図Bはカフェインの他に3つの初代代謝物を合わせて解析した場合、そして図Cは9つの全代謝物を合わせて解析した場合です。曲線下面積(AUC)がABCの順に大きくなっていることに注目してください。実はAUCが大きい程、診断精度が高くなって、擬陽性と偽陰性症例が減ってくるのです。この解析ではPD患者108名と非PD31名、計139名を調べたのですが、図Cで判定すると偽判定例は2例あるかないかという結果になります。もし図Aで判定すると、測定は楽になりますが、2割強が擬陽性と判定されてしまいます。


●CYP1A2その他の代謝酵素の影響やカフェイン受容体の影響は少なかった(同論文を参照)。


 ここでカフェインの代謝経路を見てみましょう(図2)。




 図1のROC曲線のAUCを小さくするには、摂取したカフェインの量をどれだけ正しく割り出すかに懸かっています。そのために、カフェインそのものの他に、代謝物を含めて測定できるものはすべて測定して、その総和を求めれば、飲んだカフェインの量に限りなく近づくというわけです。


●PDの予防にカフェインが関与しているという疫学データの説明に、カフェインのROC曲線が役に立つ。


 図1のAUCがカフェイン代謝物の数と比例していること、およびAUCが1に近づくほど擬陽性が減ることから、コーヒーのカフェインがPD予防の重要な要素である可能性が高まりました。ではコーヒーを飲んでいるPD患者のカフェイン血中濃度は低いのでしょうか?


●図Aで判定する場合、カフェイン血中濃度のカットオフ値は194ナノグラム/ミリリットルで、これ以下はPDリスクが高まります。


 論文の著者の考えでは、PD患者の血中カフェイン濃度が低い理由は「PD患者のカフェイン吸収機能が低い」からとのことです。ならば、吸収率を改善できればPDを予防でるのでしょうか?次々に新たな疑問が湧いてきますが、現時点で言えることは、「PDになっても普通にコーヒーを飲み続ける」ことが、病気の進行を遅らせる可能性はあるということです。


(第337話 完)


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