シリーズ『くすりになったコーヒー』


 鍼治療の有効性については賛否両論。マッサージと違って保険適用の範囲にも制限があるようです。鍼治療を受けてみようかと思っても、効き目を予測したり、確かな鍼灸師の選び方など、解らないことだらけ。そんななかで去る10月、中国の研究者が妙な論文を発表しました。


●欧米の医学誌に、鍼治療が効かないという論文が多い理由は、欧米人がカフェインの多いコーヒーを飲んでいるからである(詳しくは → こちら)。


 中国実験方剤学雑誌に英文で投稿されました。研究したのは中国中医学アカデミー(北京)のグループで、ネズミの実験データは、それなりに信頼できると思われます。


 著者らはまず、鍼治療の有効性に関連する生活因子を探ってみたところ、欧米人の85%が飲んでいるコーヒーの主成分カフェインが原因であるとの作業仮説を立てました。次いで、マウス足底切開の痛みに対する鍼治療の効果を調べました。その結果は、少量のカフェインが鍼治療の効果を減弱させたというのです。そして出した結論が、「欧米で鍼が効かない原因はカフェイン消費量が多いから」と、効かない理由を他人のせいにしちゃいました。流石は中国・・・愛国心が半端でありません。中国人はお茶をガブガブ飲んでいても効くというのでしょうか?


 実はこの論文が出る数ヶ月前に、米国ロチェスター大学の日本人が書いた論文が出ています。


●カフェインはアデノシンA1受容体を遮断して、鍼治療の効き目を弱める(詳しくは → こちら


 図で説明しましょう。




 図の文章とネズミのイラストで実験手順をじっくり見て下さい。CFAとは、弱い刺激でも強く痛みを感じるようにする抗体薬で、効果発現まで数日かかりますが、実験の感度と再現性がよくなります。棒グラフは実験結果のまとめです。まず、カフェインなしの場合には鍼治療がよく効いて、最後のCS測定で痛みを感じなくなりました。その結果、青い棒グラフは下向きです。逆にカフェインを飲んでいるネズミでは、鍼が効かなくなっていて、赤い棒グラフが上向きです。


 なぜこうなるのかと言いますと、答えはアデノシン受容体にあるのだそうです。鍼治療では、鍼による刺激部位のA1受容体が活性化して痛みを脳へ知らせます。しかし、このときカフェインがあると、A1受容体が遮断されて、鍼の効き目が弱まるのです。そこで、鍼の効果を確実なものとするためには、カフェイン排除が必須です。


●鍼治療の鎮痛効果を期待するならば、治療前日からカフェインを飲んではいけない。


 薬理学によれば、カフェインは鎮痛薬の作用を強めることが知られています(詳しくは → こちら)。しかし、物理的刺激で痛みを緩和する鍼治療の場合には、薬理学は通用しないのです。せめて薬理学的に表現すれば、「カフェインは鍼麻酔のアジュバントにならない」となるのです。ですから鍼治療を受ける患者は、治療前日からカフェインを摂らないように注意しなければなりません。


以上は今の所、動物実験に基づく仮説です。確かなエビデンスとするには、臨床試験が必要だと思われますが、実地医療が先行する課題でもありそうです。


(第333話 完)


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