シリーズ『くすりになったコーヒー』
苦味受容体が、舌だけでなく胃にもあるという前回のお話は吃驚仰天だったのですが、他にも吃驚があるのです。今回は苦味受容体の吃驚仰天第2弾・糖尿病の巻と致しましょう。
●小腸の壁にあるL細胞にも苦味受容体がある(詳しくは → こちら)。
先ずは図1をご覧ください。
この図で膵β細胞とは、血糖値に合わせてインスリン分泌を調節する細胞です。このとき「インスリンを出しなさい」という指令を伝えるのはインクレチンというホルモンで、GIPとGLP-1の2つがあります。GIPは小腸のK細胞、GLP-1は同じく小腸のL細胞から血中に放出され、膵臓まで辿り着くのです。では順を追って説明しましょう。
●L細胞には苦味受容体があって、ここに苦味成分が結合すると、GLP-1が血中に放出され、膵β細胞のGLP-1受容体に結合し、するとインスリンが分泌される(図1)。
近年、GLP-1は糖尿病治療薬として人気があります。これと同じものが、食べ物の苦味の刺激で出来てくるのです。苦味が糖尿病の薬だなんて・・・これが第2の吃驚仰天です。
●浅煎りよりも深煎りコーヒーを飲んだ時にGLP-1が多く出て血糖値が下がる(詳しくは → こちら)。
14名の男性被験者のクロスオーバー試験で、深煎りと浅煎りのコーヒーが、血糖とインスリンに及ぼす効果を観察した論文です。耐糖能テストの結果によれば、深煎りで-0.6±0.3、浅煎りで0.4±0.3mmol/L(p<0.03)で、深煎りの勝ち。次に、インスリン活性を示すISSI-2値は深煎りで34.7±25.0、浅煎りで-18.8±21.0(p<0.03)で、これも深煎りの勝ちでした。さらに、GLP-1測定値によれば、深煎りが浅煎りよりも24±9%の高値を示して、優れていたのです(p=0.03)。
この論文には、苦味成分の具体的内容は書いてありません。一般的には深煎りコーヒーの苦味成分はコーヒー色の着色物質メラノイジンなので、恐らくはその一部がL細胞の苦味受容体を刺激したものと考えられます。浅煎りにはメラノイジン含有量が少ないために、深煎りが勝ったと考えられます。カフェインにも苦味はありますが、メラノイジンの苦味の方がずっと強いように思われます。
●深煎りコーヒーの苦味分画はGLP-1の分泌を刺激する薬になる。
最後に苦い食べものと言えば・・・某食品会社の調査によれば、夏場に美味しいゴーヤが一番、次いでビール、コーヒーですが、意外に数は少ないのです。
(第332話 完)
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