シリーズ『くすりになったコーヒー』


●高血圧、糖尿病、心不全、不整脈、および心血管系疾患になっても、コーヒーを止める必要はない(詳しくは → こちら)。


 ただし、特別な場合は飲まない方が良さそうです。例えばカフェインに敏感な体質では、分解と排泄に時間がかかって、そのため1杯が10杯にも相当することがあるからです。飲んだ後に、不安を感じるような気分や体調の変化があるなら、止めた方がよいのです。美味しく飲めるということが安全性の指標なのです。


 かつてコーヒーは「刺激が強過ぎて身体には良くないもの」と思われていました。それが何故身体に良いものに変わったのでしょうか?上記総説はこの10月に発表されたばかりですが、それによれば2010年以前の論文には、疫学データの解析方法に不備があったため、タバコやアルコールなどの交絡因子の影響が出ていたのだそうです。そこで、2010年までの論文を除外して、2010−2016年の論文をまとめてみたところ、コーヒーは生活習慣病の予防を強くサポートするとの結果になったのです。


●1日3-4杯のコーヒーは、健康人にとって安全であるのと同じように、心臓病患者(高血圧、糖尿病、心不全、不整脈、および心血管系疾患)にとっても安全である。


 では、この総説に含まれていない極く極く直近の原著論文を紹介しましょう。


●狭心症発作を経験した人の死亡リスクは、1日2-4杯のコーヒーで70%に低下した(詳しくは → こちら)。




 この論文は、狭心症発作を経験してから10年を経過していない4,365人(60-80歳、21%女性)を対象にした調査です。7年間の調査期間中に945人が、心血管系疾患CVD(396人)または虚血性心疾患IHD(266人)で死亡しました。コーヒーの1日消費量で層別して死亡リスクを比較したところ、CVDでは0-2杯が1.00、2-4杯が0.69、>4杯は0.72、IHDではそれぞれ1.00、0.77、0.68でした(図1を参照)。興味あることには、デカフェコーヒーでもほぼ同じだったということです。


●コーヒーの心保護作用には、カフェイン以外の成分が(も?)寄与している。


 図1の結果がデカフェコーヒーでも観察されるという事実によって、カフェイン以外の成分の寄与が重要であると言えます。ではその成分が何であるかと言いますと、直接説明できるデータはありません。しかし、ポリフェノールその他の抗酸化性の成分の寄与があると想像することは容易です。浅煎りコーヒーのクロロゲン酸と、深煎りコーヒーのN-メチルピリジン(NMP)がその候補物質です。これらの成分は直接的に活性酸素を消去しますが、特にNMPの場合は抗酸化性遺伝子を発現する転写因子に作用することが解っています。でもコーヒーには、これら以外の寄与もありそうです。


 最後に繰り返しますが、カフェインに敏感な人は、心臓病になってからのコーヒーには気をつけた方が安心です。仮に大好きでも、1日1-2杯にしておくのがベターですぞ。


(第328話 完)


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