シリーズ『くすりになったコーヒー』


 「コーヒーを淹れる」と言えばドリップ式で、ロートにろ紙を置いて、挽いたコーヒー粉を入れて、湯を注ぎ、垂れ落ちてくるコーヒー色の抽出液をカップに取る。この流れのステップ・バイ・ステップに、達人たちが入魂して、至高のコーヒーが入ります。


 家でコーヒーを淹れる時、ドリッパーなど一式を揃えて準備しますが、問題は粉の量と湯の量です。この2つを間違えなければ、誰でも普通に美味しいコーヒーを淹れられます。やがてそれでは満足できなくなって、「もっと美味しく淹れられないか」と感じたときは、「濃く淹れて薄めて飲む」が正解です。


 世の中で言われている粉の量、湯の量とは、コーヒー1杯の豆の重さは10グラム、湯の量は100~150ミリリットルです。しかし、これで淹れたコーヒーは、水っぽくて香りが薄く、いわゆるコクが不足しています。「濃く淹れて薄めて飲む」とどうなるのか、百聞は一見に如かずですから、図解を見ながらお試し下さい。



 筆者は1回に3杯以上を淹れています。一人で飲むなら1日3杯で30グラム。飲む人の人数と杯数に応じて、1杯10グラムで豆を測ります。この絵は30グラムの場合です。もしもっと多く淹れるなら、豆の重さに合う湯量を計算しましょう。作り過ぎても大丈夫です。何故なら、濃く淹れたコーヒーは味が長持ちしますから、一晩冷蔵庫に置いて翌日美味しく飲めるのです。


 さて、豆30グラムをろ紙に置いたら、表面を平らにして(ちょっと揺さぶって)、中心部から湯をゆっくり注ぎます。このとき表面の全体が濡れるようにしますが、中心の方に多めに注ぎ、そして茶色の液体が垂れはじめたら、湯を止めてそのまま放置しておきます。少なくとも30秒以上です。これを「蒸らし」と呼んでいます。このとき注いだ湯の量はほぼ30ミリリットル(≒30グラム)、豆の重さとほぼ同じです。


 蒸らしがすんだら本番です。豆の表面に泡のドームが膨らんで、大きくもならず小さくもならないように湯を注ぎながら、数分かけて100~150ミリリットルを注ぎます。するとそれと同じ量がポットに垂れてくるのです。これが普通より3~5倍濃く淹れたコーヒー抽出液というわけです。もしもっと湯を注げば、茶色の液体がいくらでも垂れてきます。しかしその味はどんどん不味くなって、苦味と渋みの混ざった嫌な味(雑味)が強まります。


 この状況を実験データで示しましょう。



 折れ線グラフはコーヒーの主な成分が流れ出す様子を示しています。対数で示す縦軸は成分の相対濃度で、最も濃度が高い酢酸塩(赤色)を基準にしています。1単位が10倍になることに注意してください。つまり折れ線の位置が1単位下がれば、濃度は10分の1に減っています。ですから横軸の100まで抽出が進めば、青色のカフェインと黒を除く成分はどれも90%ほど抽出完了というわけです。150ミリリットルまで抽出すれば、カフェインも90%以上が抽出されます。ですからカフェインを少なくしたいときは100までの抽出にすればよいのです。それでは「10%ほど損をする」と思うか思わないか、そこは淹れる人の個性の問題かもしれません。


 最後に、成分7(黒)の化学構造は不明ですが、恐らくいつまでも少しずつ流れ出す雑味成分の1つではないでしょうか。実際に飲んでみるとコーヒーの味というよりも苦くて不味い味が強くなっています。


 さて、濃く淹れたコーヒーをそのまま飲めば、何やらエスプレッソに近い味がします。バニラアイスにかけて食べてみると、デザートに最適な濃厚味です。薄めて飲むならば、何で薄めるかの楽しみが生まれます(図解を参照)。普通に飲むなら好きな濃さに湯で薄めて飲むと、薄く淹れたときとは全く違う爽やかな味に驚きます。また暑い季節なら氷やレモン汁で薄めてアイスコーヒーやレモンコーヒーにする。これもまた絶品です。カフェオレが好きとか骨の健康が気になる人は牛乳で薄めてカルシウムを補給しましょう。


 さあ皆さん、家で淹れるコーヒーを濃く淹れて、自分好みの薄め方で今までとは違うコーヒーを味わってみては如何ですか?


(第388話 完)


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