シリーズ『くすりになったコーヒー』
●コーヒーは諸刃の剣
コーヒーは薬と似ています。癌になるリスクを下げてくれるのに、発癌物質を含んでいます。この矛盾をどうすれば解消できるでしょうか?
同じく、血管壁抵抗を減らして動脈硬化を予防してくれるのに、コレステロール値を高める物質を含んでいます。こういう矛盾をどうやって消したらよいのでしょうか?
現状で考えますと、矛盾の全てを消すことはできませんが、納得できる程度には消すことができます。そのコンセプトとは・・・
●濃く淹れて薄めて飲む。
図1をご覧ください。
コーヒーの成分を、美味しい味の成分P1、次に美味しい味の成分P2、不味い味の成分P3に分けると、効き目の成分はP1とP2に含まれています。不味い味の成分P3に効き目の成分があったとしても、それは溶けにくいため、実際の効き目には関与しません。薬は溶けなければ吸収されませんから、効かないのです。
P1とP2が多ければ、コーヒーの味は良くなりますし、P3が少なければ少ないほど良くなります。P1が多ければ多いほど極上の味になりますが、効き目の成分を取り切れません。そこで結局、P1の全部とP2の80%程度を集めて飲めば、味も効き目も満足できるコーヒーになるのです(詳しくは図3で解説します)。
次に、図2をご覧ください。
コーヒー単行本やネット記事によくある「淹れ方」は、1杯10グラムの豆を、100-150ミリリットルの湯で抽出します。しかしこの淹れ方ですと、図1のP3をたっぷり含んだコーヒーを飲むことになってしまいます。なぜこんな淹れ方しか書いてないのでしょうか?
●金沢大学の珈琲博士・廣瀬幸雄氏によれば「喫茶店のコーヒーより美味しくなると困る」からなのだ(詳しくは → こちら)。
廣瀬博士は講演会で話すとき「1杯10グラムを30ミリリットルで淹れなさい」、そこから先は苦いだけなので「旦那さんに飲んでもらえばよいのです」などと話してくれます。コーヒー滓からは、いくら湯を注ぎ続けても、ずっと茶色いコーヒーが落ちてきます。図1のP3だけの状態は、終わることを知りません。
図2の大事なことは、1日に飲むコーヒーを1度に淹れておくことです。夏場は冷蔵庫に保存しますが、春秋冬はそのままテーブルの上に置いておけばよいだけです。そして飲むときに、水でも湯でも牛乳でも、好きなものを足して飲めばよいのです。勿論そのままでもよいのです。
●実際に抽出液の成分を測定してみると、図1のイメージが具体的になる(詳しくは → AROMA RESEARCH Vol.13/No.2,pp184-9,2012)。
図3をご覧ください。
40グラムをドリップ式で抽出しながら、経時的に測定しました。相対濃度を示す縦軸は対数なので、化合物1や2(味に影響する成分)と6や7(香りに影響する成分)では100倍ほどの量の差があることに注意してください。40グラムの豆に120ミリリットルの湯を流せば、5-8の抽出はほぼ終わりです。160ミリリットル流せば、2を除いてほぼ抽出は終わりです。2だけはまだ残っていますが、これはカフェインなので、全部を抽出しなくても効果を出すには十分なのです。ということですから、良い味に影響する6や7は10グラムあたり30ミリリットルで抽出が終わります。このデータは廣瀬博士が話していることと同じことです。しかし、これではまだその他の効き目の抽出が終わっていません。結局、10グラム当たり40ミリリットルで抽出すれば、良い香り、良い味、良い効き目のコーヒーを淹れられるのです。それ以上流していると、9が増えるだけで味は悪くなるだけでなく、身体に悪い成分も出てきます。
(第324話 完)
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