シリーズ『くすりになったコーヒー』
医学生がマイクロサージェリーの練習、例えば細い血管を吻合する練習をするとき、顕微鏡と吻合器具が必要です。なかでも顕微鏡は高価な上に持ち運びに不便です。ですから練習は医学部の実習室で決まった時間にやらなければなりません。当然のことながら熟達するまでにはそれなりの日数が必要です。株式会社アステックのホームページから練習装置の一例を紹介します(下図)。
図のカタログには赤字で「いつでも何処でも・・・」と書いてありますが、重さを見ると2Kgなので、持ち運びはそう簡単ではなさそうです。価格も貧乏学生には問題です。そこで、文字どおり「いつでも何処でも簡単に」が求められているのです。
では実際に岡山大学医学部の練習風景を覗いてみましょう(下図)。画面から手術の難しさがわかると思います(詳しくは → こちら)。
●吻合器具さえ持っていれば、何時でも何処でもできる練習方法はないか?
そんな方法を実現して論文に書いたのはヘルシンキ大学のA.フォタリネ先生です。下の写真をご覧ください(詳しくは → こちら)。
何と!コンビニでも売っているテイクアウト・コーヒーのカップの上にスマホが載っているではありませんか!? スマホのズーム機能が不足ならば、カップの大きさを選ぶのだそうです。そしてレンズが向いているテーブルに、吻合練習用の器具一式をセットすれば準備OK。なるほどこれなら「いつでも何処でも」に違いありません。
でもこんな簡単な方法で、本当に腕が上がるのでしょうか?論文によれば、正規の練習用器具とコーヒーカップ&スマホの威力を、別々の学生さんに5日間練習して貰って比較したそうです。すると成果は上々で、どちらもほぼ同じ熟達度だったということです。さらに、「いつでも何処でも」に加えて、安い軽いという特徴が、経済後進国での医学実習のレベル向上に寄与するのだそうです。「驚き桃の木山椒の木」とはこのことです。
さて、コンビニコーヒーの売り上げが伸びて、健康長寿社会への良い影響を期待していたのですが、それだけではなく、コンビニコーヒーは医学教育の向上にも寄与することになるのです。こりゃホントにたまげたな!
(第322話 完)
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