シリーズ『くすりになったコーヒー』
第291話 癌の珈琲論(その13)に、転移のない前立腺癌患者が毎日コーヒーを飲んでいると転移のリスクが低下するという論文を紹介しました。これはこれでありがたい話なのですが、実はこの話には見逃せない怖いおまけがついてきます。
●抗酸化薬を使うと、正常細胞が元気で長生きするように、癌細胞も元気になる(詳しくは→第280話を参照)。
癌患者がコーヒーのような抗酸化性の飲み物を毎日飲んでいると、癌が増悪するかも知れないということでもあるのです。この恐ろしい仮説を発表したのは国立研究所の人達ですが、その後に検証された気配はありません。なんとも無責任な話です。そこで筆者は「癌患者が毎日コーヒーを飲んでいるとどうなるか?」について、世界の論文に注目しています。幸か不幸か、自分でも体験した前立腺癌の論文に、癌患者とコーヒーの関係が書かれています(下表を参照)。
これまでに6編の論文が発表されています。赤字の論文は「コーヒーが癌患者にとって有用である」との判定です。又青字の論文は「有用とは言えないが害にはならない」との判定で、まとめると「癌患者にとってコーヒーは有用」との結論になるのです。有用の中身は、進行し難い、転移し難い、抗癌薬耐性になり難い、死亡リスクが低いの4点で、どれも患者にとって良いことばかりです。最大限控え目に見ても、表に書いたように、「前立腺癌の症状はコーヒーで増悪することはない」、つまり医薬品で言えば「前立腺癌患者にとってコーヒーは安全な飲みもの」なのです。
さて、2011年のことでしたが、筆者の前立腺癌は、主治医により手術不能との判断で、ホルモン療法+IMRT(強度変調放射線治療)の2本立てで治療されました。「癌は抗酸化薬で増悪する」との仮説が出る前だったこともあって、筆者はずっとコーヒーを飲み続けました。治療経過はまあまあ順調で、6年間の検査値推移は健常人と区別できません。しかしその裏側で、放射線晩期障害が進んでいることに気づかず、治療後丸6年目の今年正月から、もう大丈夫と思い込んでアルコール量が増え始めたのです。以下はその経過です。
●4月11日、飲み会の翌日、尿に小さな血痕を発見。
直ぐに、前立腺癌患者と家族の会・腺友倶楽部ネット掲示板を検索して、1つの書き込みを見つけました。「D1ごんたです。避けられない社用で少々飲み過ぎた日の2日後、血の塊がドロッと混ざったトマトジュースの如き血尿にびっくり仰天」。それから3週間後に膀胱鏡検査と組織生検を受けて、癌転移ではないことを確認したとのことでした。つまり、アルコールが原因の晩期障害部位からの出血だったのです。
筆者の場合は、4月末日、家族の誕生日のお祝いに、ワインをボトルで半分ほど飲みましたが、恐らくそれが引き金となって、2日後にD1ごんたさんと同じ血尿に見舞われました。これを機会にアルコールを止めることとし、GW明けに主治医に面談。「癌転移の疑いを晴らすために」と、膀胱鏡検査となりました。検査日までの2ヶ月間、1滴のお酒も飲まずに過ごし、日を追って膀胱と尿道辺りの尿意の薄れを実感しつつ検査の日を迎えました。
検査の結果は、直ぐに判定が下りました。モニター画面が写ると同時に、「あっこれは癌じゃあないな」との主治医の声。「やっぱりそうなんだ」と納得する筆者。写真をご覧ください。正常は左、癌であれば中央、右は晩期障害で血管が浮き出た状態。D1ごんたさんと筆者の場合、この赤い膀胱壁にアルコールが来ると、更に赤くなって大出血ということだったのです。
●筆者の前立腺癌は膀胱転移を免れた。
放射線治療の晩期障害のお蔭もあって、幸か不幸か膀胱鏡検査の機会に恵まれました。その結果は、転移ではなく、お酒を節制すれば今しばらくは無事に過ごせるとのことでした。転移なしで済んだのは、癌になってからもずっとコーヒーを飲み続けたお蔭かもしれません。
以上、6編の論文に加えた日本人の1例です。
(第319話 完)
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