シリーズ『くすりになったコーヒー』


 今回から新たなカテゴリーで珈琲学を極めます。小見出しは決まっていませんが、患者とか患者予備軍になられた方々の、心に触れる話ができればと思ってます。


 とはいえ十分な論文が揃っているわけではありません。何故ならこれまでの珈琲学は、専ら健康人の観察的疫学研究だったからです。その結果、世界の至る所で、毎日飲むコーヒー習慣が病気を予防することに注目が集まるようになりました。


 では、病気になってしまったら、コーヒーとの付き合いはどうすべきでしょうか?患者が飲んでよいコーヒーとはどんなコーヒーなのでしょうか? 実はそれがよく解っていません。解らないままに、患者を診ているお医者さんは、「病気になったのだからコーヒーは止めておきましょう」とドクターストップを掛けてしまいます。10年前にはほとんどすべてのお医者さんがそう言っていました。筆者はその頃の状況を「カフェインもうドーピングなどとは言わせない(医薬経済社)」に書いたので、引用してみましょう(下図を参照)。



 ところが最近になって様子が変わってきました。ヨーロッパの先進国を中心に、「普通にコーヒーを飲む習慣が身体に悪いことはないのだから、医者は患者にコーヒーを勧めるべきである・・・」と、国立研究所の実績ある研究者たちが論文に書き始めたのです。


●2016年、世界ランキング10位の仏国立研究所が、脳機能の衰えに焦点を当てた「コーヒーの勧め」を論文に書いた(詳しくは → こちら)。


 以下は、筆者がFacebookに載せた記事から引用です。


コーヒーと悩の関係について医者は患者にどう話すべきか?仏保険医学研究機構(世界ランク10位の国立研究所)でカフェインを研究したネーリ博士は、カフェイン研究の世界的権威で、彼女の発言の影響力は大きい。『1日5杯以下のコーヒーは人体に悪影響を与えず、脳には良い効果を期待できる。注意力を高めて気分を良くする。ごく一部の人では、睡眠を妨げたり不安を抱かせる。習慣性はないが、離脱症状を呈することがある。カフェイン/コーヒーは頭痛薬の効果を高め、飲み続ければ認知力の低下を防ぎ、脳卒中、パーキンソン病、アルツハイマー病のリスクを下げる。毎日のコーヒー飲用は健康な食事バランスの一助であって、年をとっても止める必要はない。私は患者にコーヒーを勧めます』。
つい最近、これと似た意見論文がポーランド国立食品栄養研究所から発信されました(下図を参照)(詳しくは → こちら)。



 世界中のどの国も例外なくアルツハイマー病の蔓延に苦慮しています。新薬開発がことごとく失敗し、あらたなブレークスルーもない状況での苦渋の選択を迫られました。


●治験に失敗した新薬候補でも、症状が軽いうちなら効く可能性もあるので、そういう患者を集めてやり直そう。


 そういう患者を集めるために、前世紀にはなかった鑑別診断「軽度認知障害MCI」が定義されました。厳しく管理され、莫大なお金をかけて実施する治験が、次第次第に「病気の予防薬の開発」という話にすり替わって行くようにも思えます。そこで現段階で最も実現性のある認知症予防策とは、「昔から体に良いと言い伝えられてきた生活習慣を守ることである」と、実地医療に携わる医師たちの試行錯誤が始まっているのです。


●MCIと診断されたら、「健康のために好ましい生活習慣」を守ることが一番である。


 上に紹介したフランスのネーリ博士も、ポーランドのビルゼスカ博士もそう考えているのです。彼女たちの呼びかけに、コーヒーが入っていることが大事です。コーヒーは健康に良い食事バランの要になるというのです。日本ではまだそういう政府関係者は居ませんが、もしかすると近いうちに現れるかも知れません。


 では次回からご期待ください。


(第312話 完)


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