シリーズ『くすりになったコーヒー』
深煎りコーヒー特有のビタミンとして、3回に分けてニコチン酸のお話をしました(第374、375、379話を参照)。深煎りコーヒーを飲めば、1日3杯で十分です。では浅煎りを飲んでいる人はどうでしょうか?残念ながら浅煎りコーヒーのニコチン酸含有量はほんの少ししかありません。
●同じビタミンB3のニコチン酸アミドは、より多くの食品に含まれているが、ニコチン酸の役割の一部しか代替できない。
ですから、ビタミンB3はニコチン酸として摂った方が良いのですが、毎日摂るには若干の工夫が必要です。そこで、ニコチン酸を多く含む食品「トップ10」を表にしてみました。一目して解ることは、圧倒的に深煎りコーヒーとキノコなのです。例外的にピーナッツとトウガラシが混じっています。
筆者のコーヒー研究は「ニコチン酸をより多く含む焙煎法」で始まりました。15年前、コーヒーを全く知らなかった筆者は、まるでエチオピア・コーヒーのようなフライパンを使って焙煎して、焙煎温度と時間の関係を調べました。その結果解ったことは、簡単な数式1が成り立っていることでした。
(式1) X=240−Y ただし、Yは180〜220℃であり、Xは時間(分)である。
●ニコチン酸を増やすには、焙煎温度を高くして時間は短くするか、低い温度で時間をかけるかしかない。
色々試した結果、1杯10グラムの豆に最大3.8ミリグラムのニコチン酸ができました。現在のところこれが文献上の最大値で、100グラムあたり38ミリグラムは、乾したマイタケに次ぐ高値です。
●ビタミンB3の1日必要量は男性で20ミリグラム、女性で15ミリグラム程度。
ですから深煎りコーヒーを飲んでキノコ料理を食べて、たまにピーナッツを頬張っていれば不足することはありません。ところが、経験したことがない長寿社会では、もしかすると大変なことが起こっているかも知れません。
●年をとるとミトコンドリアの補酵素NADが不足する。
ニコチン酸は体内でNADに変わります。つまり言い換えれば「年をとるとニコチン酸の1日必要量が増える」ということになるのです。しかしそれがどの程度であるのか詳しくは解りませんし、個人差も大変大きいと想像することはできますが、高齢者のニコチン酸やNADについて、詳しい生理学はまだよく解っていないのです。
今、日米の両国でNAD補給のためのサプリメントの開発が盛んです。候補は3つあって、ニコチン酸アミドリボシル、NMN、そしてニコチン酸です。3つのなかでNMNが先頭を走っているように見えますし、反面ニコチン酸は副作用のために忘れ去られているのです。
そこで重要なことは、
●食べ物から摂るニコチン酸に副作用はなく安全である。
実際に、毒キノコは別ですが、食用キノコを食べ過ぎて顔面紅潮で痛んだり、高脂血症になったりすることはありません。深煎りコーヒー数杯飲んでも副作用は起こりません。つまり、ニコチン酸に掛けられた副作用の汚名は、空腹時の臨床試験で見られたものであって、食生活ではあり得ないことなのです。
●高齢者のNAD不足による老化の促進は、コーヒーを飲んでキノコを食べれば予防できる。
筆者はどう考えてもそういう結論になるのです。
(第386話 完)
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