シリーズ『くすりになったコーヒー』


 Nature誌(2月2日号)のThisWeek欄に載っていました。2年前に英国の大学(ニューカッスル州ノーサンブリア大学)のスポーツ科学科が実施した「カフェイン運動トライアル」で重大な人身事故が起こりました。去る1月25日、裁判所の判決が確定し、大学が罰金を支払ったというニュースです。


●カフェイン投与量の計算間違いという重大過失があったのだから、被害者に慰謝料40万ポンド(5千万円)を払いなさい。




 カフェインを飲んでから運動すると成績がアップするということで、昔から多くの論文が出ています。しかしデータを見ると大したことはないのです。「全く変わらない〜僅かながら成績アップ」・・・と言ったようなものがほとんどです。今更そんな実験をやるのかとも思いますが、何か意味があるのでしょうか・・・?それにしても簡単な投与量計算を間違えて、致死量を飲ませたという失態を犯したわけですから、何をか言わんやの思いです。


 本来の計画ならば、コーヒー3杯程度に相当する0.3グラムのカフェインを飲むはずが、携帯電話を使った計算間違いで小数点の位置を取り違えたために、100倍の30グラムを飲んでしまったというのです。飲んだのはスポーツ科学科のAlex RossettaとLuke Parkinという2名の学生でした。


 カフェイン30グラムといえば、ざっとコーヒー300杯ですから、治療が間に合わなければ死んでしまいます。カフェインの致死量には個人差がありますが、裁判所の判決文には「18グラムと聞いている」と書いてあるそうです。筆者の調べでは、10グラムを超えると危険域です。幸いなことにAlexとLukeは治療が間に合って、軽度の健忘以外の異常は見られなくなったそうです。


 さて、ノーサンブリア大学のスポーツ科学科に「ヒト試験の倫理委員会」があるかないかは不明ですが、今頃は学長命令で倫理規定の洗い直し、かまたは新たな準備委員会が設置されているはずです。筆者の母校(東薬大)では、筆者が委員長となって明文化したものが、今でも使われています。日本の薬系大学、薬学部では最初でした。今でも野放し状態の薬学部が沢山あります。何故ないのか?


●薬学部が医療機関と共同研究を行うときは、当該医療機関の規定を代用してよい。


 監督官庁がそう言っていますので、本来独立しているはずの薬学部が医学部傘下でお手伝い研究しか出来ないってわけです。面倒臭いのか解らないのか、でも研究だけはやらないと首になるので宜しくお願いしますってことらしいのです。そんな大学がやれば、小数点の位置を間違えても、「ああやっぱりな・・・」と思われる程度で、世の中は全く相手にしてくれません。


(第304話 完)


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