シリーズ『くすりになったコーヒー』


 癌で入院して手術となりますと、首尾よく手術が終わったとしても、いつ退院なのかと心配です。最近は、入院日数が国民医療費を圧迫するからと言って、長期の入院は嫌われます。患者にしてみれば、むしろ好都合で、普通の食事が食べられて、歩けるようにもなれば、早く退院したいと思うでしょう。


●コーヒー好きの人にとっての朗報「短くなった入院日数の更なる短縮ができるかもしれない」。


 ちょっと前の時代まで、入院した患者に対して医者や看護師は「病院食以外のものは食べないように。特にコーヒーなどは刺激になって手術に影響しますからね。」などと言ったものです。それがこれからは「コーヒーを飲んで早く退院しましょうね!」と言われるかも知れないのです。どういうことか種を明かせばご納得いただけると思います。


●術前術後に1日3回コーヒーを飲めば、婦人科領域の癌患者の術後の回復速度が速くなる(詳しくは → こちら)。


 婦人科領域の癌患者の内訳は、子宮、卵巣、骨盤、大動脈リンパ節で、計114名を無作為に層別。術前術後に1日3回コーヒーを飲む群(58名)と、飲まない群(56名)で、術後の回復速度を比較しました。すると、初回放屁までの時間は、飲む群:飲まない群=30.2:40.2時間(p<0.001)、初回排便までは43.1:58.5(p<0.001)、初回飲食までは3.4:4.7(p<0.001)で、いずれも飲む群で短かくなっていたのです。その上で、軽度イレウスの発症リスクも軽減されて、飲む群の6人/58人(10.3%)に対して、飲まない群では17人/56人(30.4%)で、有意差が認められました(p=0.01)。以上をまとめますと、コーヒーは術後の排便能と食物耐容能を改善するので、患者ケアに取り入れるべきだというのです。




 これと似たコーヒーの効き目が大腸切除術でも報告されています。


●腹腔鏡手術で結腸切除後にコーヒーを飲むと、術後イレウス(腸閉塞)の期間が短縮される(詳しくは → こちら)。


 105名の患者を無作為に3群に分けて、デカフェコーヒー群(A群)、カフェイン入りコーヒー群(B群)、ウォーター群(C群)とし、1日3回、各100mLずつを飲むこととした。観察結果は次のようなものでした。


 術後蠕動運動が再開するまでの日数を比べると、A群3.00±1.50、B群3.75±1.53、C群4.14±1.14で、デカフェコーヒーが一番の成績でした。次に通常食を食べられようになるまでの日数は、ABCの順に、1.85:2.60:2.80で、p<0.05の有意差がありました。同じく最初のガス放出までの日数は、1.47:1.57:1.77(p<0.05)。この論文で最も興味ある結果は、デカフェコーヒーの効き目が最も強かったことです。つまり、有効成分はカフェインではないかも知れないのです。




 コーヒーによる術後回復速度の改善について、ちょっと古い(2012年)のですが、もう1つ論文があります。対象は大腸癌患者80名で、それを術後にコーヒーを飲む群と水を飲む群に分けて観察したのです。すると、術後の蠕動運動再開までの日数に差が見られて、コーヒー群の平均60.4時間が、水群ではやや長くて平均74.0時間(p=0.006)でした。表2の結果とほぼ同じです。


 以上、論文数は3編のみで少ないのですが、コーヒーを飲むことで術後の回復が早くなるのは、どうやら確かなことのようです。論文著者の一人はこう言っています。


●これからは、手術が決まった患者さんに「コーヒーを飲みなさい」と言うお医者さんが増えるでしょう。


(第303話 完)


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
空前の珈琲ブームの火付け役『珈琲一杯の薬理学』
最新作はマンガ! 『珈琲一杯の元気』
コーヒーってすばらしい!
購入は下記画像をクリック!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・