委受託は調剤薬局の姿を変えるか
範囲は3次医療圏
ともかく、今回の日本調剤とスギ薬局との調剤業務の一部外部委託を紹介すると、日本調剤のはなてん薬局が応需した一包化調剤をスギ薬局の「在宅調剤センター西田辺店」(阿倍野区)に委託する。その代わり、スギ薬局の「加美北店」(平野区)が患者から応需した一包化調剤を、今度は日本調剤の「喜連東薬局」(平野区)に委託する、という相互の委託・受託事業である。ライバル同士と言っても、隣り合わせの薬局ではないから一包化調剤を委託したり、受託したりするのはさほど問題ないのかもしれない。
この薬局の調剤業務の外部委託・受託は急に飛び出したわけではない。ご存知の人も多いだろうが、3年前の21年4月、政府の規制改革推進会議の「医療・介護ワーキンググループ」が調剤業務の効率化を取り上げたことが始まりとされている。その中身は医薬品医療機器等法で「薬局は調剤を求められたら、その薬局に従事する薬剤師がその薬局で調剤しなければならない」という規定の見直しを求めたものだ。その理由として薬局では調剤に時間がかかり、患者の待ち時間が長いこと、さらに薬局にはかかりつけ薬局としての機能が求められているにもかかわらず、調剤に時間を取られ、薬剤師が服薬指導後のフォローや在宅医療に遅れをとっている、といったことなどが挙げられている。
この規制改革推進会議の発表をきっかけに議論が一気に活発化した。22年1月には日本経済団体連合会(経団連)が内閣府特命(規制改革)担当相に「オンラインヘルスケアに関する提言書」を提出した。そこには「調剤委託」「40枚規制の撤廃」、さらに「オンラインに特化し対面機能を持たない薬局の設置」なんていうことも盛り込んだ。もっとも、経団連は調剤薬局向けピッキングマシンや自動分包機、調剤監査支援システムなどの販売促進が目的ではないか、などと穿った見方もある。
それはともかく、厚生労働省もワーキンググループで調剤の外部委託の是非の検討を開始。民間では大阪で思温病院を運営する一方、家業の「ハザマ薬局」を経営する狭間研至医師が日本調剤やアインファーマシーズ、スギ薬局等々の大手薬局も加わる「薬局DX推進コンソーシアム」を結成し、大阪市を国家戦略特区に認定し、その事業として外部委託を提案……。こうした流れを受けて認められたのが国家戦略特区の大阪市内でのみできる調剤の外部委託・受託である。条件は散剤を含まない一包化に限られる。
早速、調剤の外部委託を始めたのが、コンソーシアムに加わる薬局だ。コンソーシアム結成を呼びかけたハザマ薬局が9月に同社の2つの薬局で大阪市の認可を受けて外部調剤委託と受託を開始し、アインファーマシーズはやはり同社の薬局2店舗間で調剤委受託を9月から始めた。日本調剤も同社内の2店舗で調剤委受託に乗り出し、続いて今回、スギ薬局との間で相互調剤委受託を始めたという経過だ。
調剤の外部委託は薬局の「対物から対人」の促進とされる。対物とは調剤で、外部委託することで薬剤師に余裕が生まれ、服薬指導後のフォロー、在宅患者へのサービス、残薬管理など在宅医療に関われるようにするという名目だ。
だが、お題目通りに行くだろうか。多くの薬局が不安材料として真っ先に挙げるのが責任の所在だ。3年前に東京・杉並区のスギ薬局で起こった調剤過誤による死亡事故で損害賠償請求事件に発展しただけに不安は募る。
もちろん、処方箋を受けて委託した薬局が責任を持つのが基本だが、「受託した薬局が調剤した医薬品をすべて確認するのは時間もかかるし難しい。もし調剤過誤が起こったら薬局同士で揉め事になる」(ある薬剤師)という。次に挙げるのは自然災害発生時の対応だ。外部委託すると、その分、医薬品の種類と備蓄分を減らせるため、万一、災害が発生したら医薬品を提供できなくなる、というのだ。能登で地震と豪雨災害が続いただけに生々しい不安だ。そればかりではない。ある薬局の店長は「外部委託すると、薬剤師の負担は軽減されるが、その分薬剤師を減らすか、他店舗に異動されかねない。在宅対応と言っても、医師や看護師と違い、臨床を経験していない薬剤師が在宅でできることは限られる。薬の説明と残薬確認くらいしかないですから……」というのだ。
加えて、輸送コストの負担もあるという。例えば、同じ社内の薬局同士で委託、受託を始めたアインファーマシーズに聞くと「受託した薬局は一包化調剤した医薬品を委託元の薬局に宅急便で送り、委託元の薬局が患者さんに渡します。患者さんが受け取りに来てくれると助かるのですが。まだ件数は少ないですが、この輸送をどうするか検討中です」という。
始まったばかりだから当然と言えば当然だが、細かな難題が控えているらしい。
ある調剤薬局の経営者が話す。
「真っ先に外部調剤委託に乗り出したハザマ薬局の狭間先生は在宅医療に熱心な方です。多分、在宅医療の現場で処方箋を書き、受託する薬局に調剤を委託して早く処方薬を届けたい、という立場から外部委託に熱心なのでしょう。一方、門前薬局などが多い日本調剤は調剤報酬の減額を防ぎたいでしょうし、スギ薬局は規模拡大を狙っているのでしょう。それぞれ思惑があるようです」
だが、それでも世の中はオンラインの時代。今後、調剤の外部委託は広まるだろうと見ている。
「かつてはどこの商店街でもクリーニング屋があって、店主がアイロンをかけている姿が見られました。しかし、今日ではクリーニングと言えば、ほとんどが工場で洗濯され、店舗は洗濯物の引き受けと引き渡しのカウンターだけです。薬局もクリーニング店のようになるのでしょう」
クリーニングに限らず、サンドイッチはコンビニエンスストアで買い、パティシエが腕を振るうケーキ屋も昨今は「工場直送」が登場する時代だ。薬局も将来は受託薬局が調剤を行ない、門前や街中の薬局は処方箋原本と医薬品の受け渡しだけになるのかもしれない。