就労継続A型の報酬が厳格化


 こうして見ると、6年に1度の同時改定に際して、医療、介護、障害の切れ目のない提供体制を構築するため、「トリプル」の連動性が強く意識された様子を見て取れる。


 その半面、給付適正化に繋がる改定も実施された。そのひとつが、入浴や食事などを提供する生活介護の基本報酬の見直しだ。従来の仕組みでは事業所の営業時間で報酬単位が設定されていたが、利用者ごとのサービス提供の実態に応じた体系に切り替えられた。これは事業所の経営を直撃しており、「利用者個人に寄り添った支援ができなくなる」「実態に合わない」といった事業所の声が紹介されている(24年6月14日『東京新聞』、同年4月6日『京都新聞』)。


 さらに、障害者が働きつつ知識や技術を身に付ける就労継続支援A型事業所の報酬見直しも現場に影響を及ぼした。就労継続支援A型とは、障害者と事業者の雇用契約に基づき、就労の機会が提供される類型。民間企業などで働く一般就労への移行に向けて支援するため、最低賃金以上の工賃の支払いが義務付けられている。


 報酬は、定員規模や人員配置に応じて設定されており、前回の21年度改定では「労働時間」「生産活動」「多様な働き方」「支援力向上」「地域連携活動」で計200点満点によるスコアで評価する仕組みが採用された。


 今改定では、スコアの点数配分に変更が加えられたほか、経営改善や利用者の知識・能力向上の取り組みも勘案することになった。具体的には、生産活動に関わる収支では最大20点の減点になるほか、経営改善計画の作成状況に応じて最大50点の減点が設定された。逆に平均労働時間が長い事業所や生産活動収支が大きい事業所に対して加点された。


 その結果、事業所経営に影響が出ており、8月13日の『共同通信』配信記事によると、全体の7%程度に相当する事業所が閉鎖され、そのうち約4割が就労継続支援B型(最低賃金が適用されない就労支援サービス)に移行したという。解雇された障害者の数も最大約5000人に及ぶ可能性があるとされ、武見敬三前厚生労働相が解雇された障害者の再就職支援を労働局などに指示する事態に発展した。


 これらの見直しに至った背景として、障害福祉サービス費の増加を指摘できる。直近15年程度の推移を見ると、の通り、国費ベースで07年度の5000億円程度から23年度には約2兆円超に伸びた。このため、財政制度等審議会(財務相の諮問機関)の資料でも障害福祉の見直しに関する言及が増えており、23年11月の資料では、24年度改定に向けた見直し策として、生活介護で「サービス利用時間やサービスの質を考慮した報酬体系への見直し」、就労継続支援で「生産活動収支や工賃などの成果をより考慮した報酬体系への見直し」が列挙されていた。



 要するに、本稿で紹介した見直しは財政審の指摘を受けた結果であり、増加基調の障害福祉サービスに関して、財政当局が厳しい態度で臨み始めた格好だ。さらに、この傾向は今後も続きそうだ。少子化対策の財源を確保するため、23年12月に決まった「全世代型社会保障構築をめざす改革の道筋(改革工程)」では、さらなる見直し項目として、▽共同生活援助(グループホーム)における総量規制も含めた事業所指定の在り方、▽サービスの質などに応じたメリハリある報酬設定——などが示されているためだ。


 医療・介護では近年、給付抑制を図りつつ、重点分野を強化する対応が取られているが、この流れが障害福祉に波及するのは避けられないかもしれない。