後発品は「有利」か「不利」か
ここまでの視点は新薬開発企業から見たIRAの影響だが、後発品やバイオシミラーを製造する企業にはどのような変革をもたらすだろうか。
ここも2つの見方がある。第1が、IRAが結果的に後発品やバイオシミラーの普及を促進し、より手頃な薬価で医薬品を提供することが可能となり、最終的に患者の利益につながるとの見方だ。
第2が、後発品やバイオシミラーに不利になるとの考え方である。交渉後の薬価がメディケアパートDに反映される26年以降、ブランド品は後発品やバイオシミラーと価格競争をすることになる。ブランド品は後発品などの上市前に値上げを実施してきたが、インフレ・リベート制もあり、そう簡単に値上げできない。その結果、後発品やバイオシミラーの値付けも難しくなる。高薬価のブランド品との価格差が縮小するほか、値下げなどの対策が打ちにくくなる。また、価格差があまりなければ、後発品やバイオシミラーの開発意欲が削がれるとの指摘である。
米国も日本と同様に後発品の供給不安が続いている。後者のような「マイナス効果」が出てしまえば、米国政府にも批判が集中する。IRAによる薬剤費抑制策が一時的にも頓挫する可能性は否定できない。
IRAにはもうひとつ落とし穴がある。MFPが設定された医薬品について、メディケアパートDを扱う保険会社や薬剤給付管理会社(PBM)は、取り扱う処方箋薬リストに記載しなければならないルールだが、他製品よりも優先して供給しなければならないとは明記されていない。そのため、直接交渉医薬品の競合品の処方が増加することが否めないのだ。競合品を持つ企業がPBMなどに過大なリベートを提供して、リストに掲載、数量拡大を図るという戦略だ。ただし、利益は薄くなってしまう副作用がある。
バイデン政権はIRAで定めた、メディケアで製薬企業が保険会社にリベートを支払うことを禁じたルールの施行を延期しており、リベート問題の決着はまだ先の話だ。
IRAの本当の効果は、すぐに判明するものではない。とにかく制度が複雑で、研究者の間でも見解は分かれている。