処方拡大のコンサルテーションの仕事のひとつで、MRの実際のメールをチェックすることがある。多くの製薬会社のMRが、先生へのメールで未だに「御侍史(おんじし)」「御机下(おんきか)」を使っている。侍史の意味は、高貴な方のお付きの方のことで、直接お手紙を差し上げるのは恐れ多いので、お付の方にお渡ししますという「体」である。机下も同じく、私のようなものの手紙は、机の下にでも……という意味だ。「うちは100%御侍史を使用」、何なら郵便物には印刷しているというところもあれば、「会社としては推奨していませんが、皆さん御侍史使用です」と言うところもある。


 若手のリーダークラスで、うちのメンバーには絶対使わせないという人もたまにいるが、MRではなく支援部隊であったりする。弊社のお客様でゼロというところは、現在のところない。数十年前の調査ですでに医師の半数が御侍史という表現に「違和感がある」と言っているのに、未だに怒らせると怖いから念のため使っておこうという人が多い。


 〇〇病院〇〇先生御侍史でメールを始めると、次の行も侍史の雰囲気に合わせて「貴院ますますご清祥のほどお喜び申し上げます」など、意味のない挨拶が2行ほど続くことになる。先生との距離を縮めるのがMRの仕事なのに、わざわざ先生との間に距離を取ってどうするのだと思う。KOL(キーオピニオンリーダー)の先生や初回の面談の先生ならまだ判るが、普段のメールだ。先生を尊敬するのは良いことだが、これは先生の時間を無駄にしているに過ぎない。「丁寧すぎて先生との間に壁をつくる」のは、なかなか治らない業界の悪習慣である。


 ちなみに多くのMRのメールをチェックしたなかで、最優秀はある女性MRのメールだ。「〇〇病院 〇〇科〇〇先生 御侍史」の2行目にいきなり「先生、こんにちは!」。これが現時点で最強である。