本連載第31回〜第50回は「特別編」として、20回にわたって、24年度薬価制度改革に関するキーワードを網羅的に取り上げてきました。今回からは通常に戻りつつ、その時々でホットなキーワードについて解説していきます。
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25年度に薬価の中間年改定が行われれば、21・23年度に続き、3度目の実施となる。政府は6月の「骨太の方針2024」に「25年度薬価改定に関しては、イノベーションの推進、安定供給確保の必要性、物価上昇など取り巻く環境の変化を踏まえ、国民皆保険の持続可能性を考慮しながら、その在り方について検討する」と明記した。
16年12月の「4大臣合意」(官房長官、経済財政相、財務相、厚労相)に基づき、21・23年度の中間年改定が行われた。製薬業界は、物価高騰・賃金上昇などを踏まえて、25年度は中間年改定を「実施する状況にない」「薬価差が生じる要因の本質的な議論が必要」と訴えている。中間年改定は「4大臣合意で決まった」と紹介されることが多いが、突然出てきた話ではない。それ以前の議論を振り返ってみる。
05〜09年頃に「厚生労働省発」で、2年に1回から頻度を増やす「頻回改定」の可能性を探る議論があった。「市場実勢価格が下がっているのに、2年間も放置しておくのは、患者・納税者の立場から許されないのではないか」といった問題意識からだ。断続的に検討が行われたが、業界の反発もあり、09年5月、流通改善の進展を見守りながら「議論を継続する」方向が示されたまま、立ち消えになった。
ところがその後、14年度に入って、今度は厚労省ではなく、政府の「経済財政諮問会議」から「毎年薬価調査と薬価改定を行うべき」との提言が出された。関連して、次のようなデータも示された。「仮に04〜10年で改定のない年に引き下げていれば、7年累積で国民負担額0.7〜0.8兆円の効率化ができた可能性がある」
どう推計したのか。改定がない05年度なら、データのある「04年度改定と06年度改定を平均した」1年分にあたる2929億円が縮減可能と見積もった。同様に07年度は2064億円、09年度は2510億円が削減可能だったとして、計7503億円の追加的な効率化の余地があったと弾いた。
製薬業界は「イノベーションを阻害する。到底容認できない」と猛反発。厚労省もこのときには「(毎年)市場実勢価格を把握するのは、技術的に難しい。薬価調査を民間の医薬品卸に依頼している関係で、調査の実施や費用負担に理解が得られるのか」と難色を示した。結局、14年6月の「骨太の方針2014」には、毎年改定という表現は入らず「頻度を含めて検討」との文言が盛り込まれた。
ただ、当時の安倍晋三首相は14年11月、消費税率10%への再増税を15年10月から17年4月に1年半延期し、解散・総選挙に踏み切った。このため、毎年改定に関する議論も先送りされた。その後に高額薬剤問題に端を発する政府の薬価制度抜本改革で「4大臣合意」がなされ、そのなかで中間年改定についても規定された。 (市川)