23年3月、屋内・屋外にかかわらず、マスク着用は「個人の判断」に任せることになった。また同年5月には、新型コロナウイルスの感染症法の位置付けが、季節性インフルエンザと同じ「5類」となった。あれからおよそ1年半。一部にまだマスクを着けている人がいるものの、屋外だけでなくスーパーや飲食店などでも、素顔で過ごす客のほうが大半となった。店員にはまだマスクを着けている人が多いが、「誰かに忖度して着けざるを得ない」という同調圧力は低下したと言えるだろう。


 ところが、いまだにマスク着用を強く求めてくる場所がある。「医療機関」や「介護施設」だ。素顔で屋内に入ると、スタッフが「マスクはお持ちではないですか」と声をかけてくる。それが鬱陶しくて、「病院に行きたくない」という人もいる。筆者もそのひとりだ。


「重病患者やお年寄りなど、免疫が低下した人がいる。マスクくらい着けるのはあたりまえだ」と言われるかもしれない。だが、新型コロナやインフルエンザなどの呼吸器疾患について、一般的なマスクの効果を調べた臨床研究は多数行われてきたが、感染拡大が予防できるという強固なエビデンスは得られていない。


 また、欧米の医療機関でもマスク着用の解除が進んでいる。スウェーデンのカロリンスカ大学病院に勤務する外科医・宮川絢子さんによると、同院は23年3月に一律のマスク着用を撤廃した。現在は、患者のみならず医療スタッフも、手術の時など以外はほぼ全員が、院内でもマスクなしで過ごしているという。


 さらには国内でも、マスク着用を解除する医療機関が少しずつだが増えている。国立成育医療研究センター、埼玉医科大学国際医療センター、北里大学病院、東京都立小児総合医療センターなどだ。個人開業のクリニックや介護施設のなかにも、マスク着用のお願いをやめる施設が出てきている。


 鹿児島で介護事業などを展開する「いろ葉」が運営する施設では、コロナ禍の最中も「個人の判断」に任せてきた。同施設の訪問診療を担当する総合診療医・森田洋之さんによると、認知症患者はただでさえ不安なのに加えて、相手の顔がよく見えないとより不安になるという。そのため、なかには相手に対し「マスクを取れ」と怒り出す人もいるそうだ。


 そもそも医療・介護のスタッフも、施設から一歩出れば素顔で過ごす人が少なくないはずだ。四六時中マスクを徹底して着け続けられる人などいない。それなのに、「マスクしたくない」という人にまで、マスク着用を強く求める合理性があるだろうか。施設のなかだけでマスクを着けて、感染が予防できるとは筆者には思えない。