23年春、私たちの医薬品利益相反研究グループは、英国バース市で開催された国際会議に参加した。その時の参加者で知己を得たのがアイルランド王立外科医学院のトム・フェイヒー教授だ。
アイルランドは23年の推定人口約528万人の小国だが若年層が多く、IMFによる24年の1人あたり名目GDPは10万4000米ドルで世界第3位、3万3000ドルで第36位の日本よりずっと好況を呈している。IT、医薬品、金融サービスが経済を牽引し、多国籍企業が欧州拠点を置き、とくに製薬業界とバイオ医薬品産業が経済の中心的な役割を果たしていることで知られる。
医薬品産業はアイルランドの輸出の約50%を占め、22年の医薬品輸出額は約1000億ユーロ、ファイザー、メルク、アボットなど主要な製薬企業がアイルランドに生産拠点を持つ。バイオ医薬品の生産はとくに重要で、世界で販売される上位10の医薬品のうち、8つがアイルランドで製造されている。政府は医薬品産業に積極的な支援を行い、22年にはGDPの約2.2%を研究開発に投資した。
そのようなアイルランドのフェイヒー教授は、公衆衛生学と一般診療の専門家であり、プライマリケア研究で国際的に著名な人物だ。英国王立一般開業医協会から複数の研究賞を受賞、19年には栄誉あるジェームズ・マッケンジー講演を行った。現在はアイルランドの健康研究委員会の理事であり、アイルランド医薬品規制当局の委員も務めている。お人柄も紳士的で偉ぶらない方で、忙しいなか、何度もウェブ会議の機会を設けてもらい、23年11月には医療ガバナンス研究所が主催した第18回現場からの医療改革推進協議会でも来日講演をされた。