この10月末にも私が主催する勉強会でウェブセミナーを実施して頂いた。そこで紹介されたのが、アイルランドにおける不適切処方研究だ。主に高齢者や特定の条件を持つ患者に対するリスクが利益を上回る可能性のある薬の処方を指す。臨床的には珍しくなく、日本を含め世界共通の課題だ。例えば、「ベンゾジアゼピン」や「プロトンポンプ阻害剤」の長期処方といったものだが、患者からの求めもあり、医師側もわかっていても、なかなか止められないことも多い。
フェイヒー教授の研究では、65歳以上の高齢者が入院することで、潜在的に不適切な処方が増加するかどうかが調査された。とくに、病院への入院がリスクを増加させるのか、退院後にそのリスクが高まるのかが検討された。研究はアイルランドの44の一般診療所で行われ、データは12年から15年にかけ収集され、英国医師会誌(BMJ)に18年発表された。
調査の結果、全体の約45%から51%もの患者が少なくともひとつの不適切処方を受けていた。入院経験のある患者は入院前に比べて退院後に不適切処方が増加する傾向があり、入院した患者はそうでない患者に比べて1.24倍高く、退院後はさらにリスクが1.72倍に増加した。年齢、処方された薬の数、複数疾患の合併もリスク要因として関与していた。
この結果から、入院によって高齢者に対する不適切処方の可能性が高まることが示された。とくに、入院中に新たな薬が追加されたり、既存の処方が見直されなかったりする場合にリスクが増加したと考えられる。これにより、患者が退院後に不必要に薬を長期間使用したり、副作用が増加したりする可能性があり、入院後の薬物管理が重要であることが認識された。これらの研究を踏まえ、退院サマリーに注意喚起を付与するなどの施策を行い、不適切処方を減らす効果がある程度達成されたという。
日本での日常診療にも役立てられる研究であり、今後も国際交流を発展させながら、社会と医薬品の関わりを探っていきたい。