政治への暴力がもたらすもの


 政治家への襲撃事件は海外でも相次いでいる。1月2日には韓国最大野党のイ・ジェミョン(李在明)代表が凶器を持った男に襲われ首を負傷した。5月15日には、スロバキアのロベルト・フィツォ首相が銃撃され負傷した。7月13日には米ドナルド・トランプ前大統領が演説中に銃撃を受け負傷した。


 政治家や政党を標的にした模倣犯や、新たな手段による犯行が増加すると、社会への不安や危機感が限界を超え組織的なものへと発展していくおそれがある。そうなれば治安は悪化し、海外からの観光客は遠のき、経済的にますます後退していく負の連鎖に陥る。


「意図的な火災」とは、より政治・経済や流通、国防に影響を及ぼすことを目的とする放火である。SNSに限られたことではないが、現代社会では化学の知識や専門家の協力を容易に得やすいことから、「意図的な化学災害」と言われる。化学工場破壊や工業用化学物質の撒布などによるテロ行為が懸念されている。


 これらの標的となるのは、国を代表するような、施設、記念碑、建造物、ホテル等で警備の弱いところだ。スターバックスコーヒーがテロの標的になりやすいと言われるのは、米国を象徴しているからだ。首相官邸などの重要施設の警備は堅いが、襲撃はそれを上回るか、想定外の技術や方法により実行される。


 SNSが犯行動機となる場合、次の3段階を経る。


 第1段階はSNSよる思想の方向付けだ。


 第2段階はフィルターバブルによる思想の過激化で、アルゴリズムにより、同じ考え方や価値観の情報が集中的に表示される「バブル」のなかで過ごしているうち世間から孤立し、社会的常識からも離れていく。


 第3段階はエコーチェンバー現象により実行の背中を押されてしまうことだ。フィルターバブルのなかで、同じく過激化した思想の集団に囲まれていると、自分の思い込みを発信した場合、反響が大きいかのように、まるで大勢に支持されているかのように感じられる。自分の犯行が正義だと錯覚して実行するようになる。


 政治への暴力が横行し、組織的になると政府と国民の間が分断され国力が弱くなり、他国からの侵略を招く事態に陥る。または間接侵略として他国からの政治への暴力やSNSへの関与がなされることがある。日本はその両方に直面しているように見えるが、いざ、侵略されても米国が日本を守る期待は薄い。


 石破茂首相がアジア版NATO(北大西洋条約機構)について言及したが、日本の国土は米国のために事実上防衛されてきた。



 米国は1920〜1930年代にかけて、将来起こり得る日本との戦争を計画していた。「War Plan Orange」(オレンジ計画)と呼ばれるものだ。戦後も、中国の太平洋進出を抑える「Global Strategy」、インド洋方面への展開拠点「Theater Strategy」などを整備してきた。日本の国土防衛には過剰な200機ものF15戦闘機や対潜戦闘能力は米国の海外戦略のためである。


 その一方で、日本には国土を防衛する明確な方針すらない。米国に守ってもらうことは現在の状況では期待できず、むしろ北方と台湾有事の2正面の相当な負担を求められている、以前の50倍にも増えた米軍や海外の軍隊との共同訓練はこれを表すものだ。日本は今こそ、国土防衛の方針を確立しなければ、防衛費を2倍にしても危機は去らず、経済的に困窮していく一方だ。